東洋英和女学院小学部 𠮷田小学部長に聞く
「公平性」を求めた入試の変更点は?
日時:2025年4月開催 場所:東洋英和女学院小学部

今回は、東洋英和女学院小学部の𠮷田太郎小学部長に新しい取り組みや、東洋英和に合うご家庭について、入学試験変更の狙いをジャック幼児教育研究所 広尾教室長の溝口元子と副教室長 大岡久真が伺いました。
ゲスト
-
東洋英和女学院小学部
小学部長 𠮷田 太郎先生
聞き手
-
ジャック広尾教室
教室長 溝口 元子
-
ジャック広尾教室
副教室長 大岡 久真
1. 新しい取り組みは?

溝口:𠮷田先生は3年前に小学部長に就任後、新たな取り組みを推進されています。はじめに「チャプレン」という役職を新たに置かれた意図についてお聞かせください。
𠮷田小学部長:チャプレンとは、学校付牧師のことを言います。本校の児童や保護者、私を含めた教職員を導いていただくために、2024年度から日本基督教団の牧師である陣内大蔵先生に来ていただいています。陣内先生には、たとえば、もしも私が経営のことだけを考えてキリスト教教育から外れるような決断をしそうになった時には、その道ではないと教えていただくようお願いをしています。誰に対しても評価をせずに話を聞いてくれるチャプレンの存在はとても大きく、学内の雰囲気がより良くなったと感じています。また、先生たちは礼拝でお話をする。という機会がある場合などには自然とチャプレンのお部屋に行き、聖書の言葉をちゃんと伝えられているかなどを相談させていただくなど、自ら学ぶようになり、礼拝の質が高まっているように思います。
溝口:東洋英和女学院の建学の精神を表した「敬神奉仕」の心を育てる教育につながっているのですね。次にお考えのことはありますか。
𠮷田小学部長:平和学習に注力するなど、より「敬神奉仕」の心を育てる教育を追い求めていきたいと考えています。例えば、私たち教職員も募金をして被災地にお送りして終わり。というだけではなく、自ら現地で汗を流すなどの実体験を通じて子どもたちに伝える、話を聞いた子どもたちがお手紙を書いて現地にお送りするなど、一つひとつの中身を大切にしていきたいと願っています。
溝口:𠮷田先生は「本物にふれる教育」「体験の価値」を大事にされていて、お子様の国際性を育む機会づくりにも積極的に取り組まれていますね。
𠮷田小学部長:小学部では姉妹校であり同じくキリスト教学校である梨花(Ewha)女子大学附属初等学校(韓国・ソウル)との交流を大切にしてきました。また、昨年からはオーストラリアでのホームステイ・プログラムも実施するようになり、2025年度はLourdes Hill College(オーストラリア・ブリスベン)と姉妹校協定の締結をし、プログラムを実施します。これからも子どもたちの興味関心を広げるチャンスをできるだけ多くつくっていきたいと思います。
溝口:「小学部長ブログ」で拝見していて今日対面できるのを楽しみにしていたのですが、スクール・セラピードッグはどのような思いがあり迎えられたのでしょうか。
𠮷田小学部長:動物には人の心を安らかにし、開かせることができると考えられています。カウンセリングルームにはちょっと行きづらいけれど可愛い犬なら会いに行きたいということもあるでしょう。そこで2025年4月にスクール・セラピードッグとしてオーストラリアから子犬を迎えました。名前は公募を行い、東洋英和の卒後生である村岡花子さんの翻訳作「赤毛のアン」にちなんだAnne(アン)に決定しました。Anneはいつも私の部屋にいるのですが、子どもたちだけでなく教職員もふれあいに来てくれています。
大岡:そのほか変更されたことがあれば教えてください。
𠮷田小学部長:昨年までは中学部への進学にあたり2月1日に試験を受けに行っていたのですが、今年から受けに行くのをやめます。中学部との信頼関係のもと、小学部が豊かな教育を行い、自信を持って子どもたちを送りだすことを約束した形です。

2. 東洋英和らしさとは?

大岡:小学部長就任から3年が経ったからこそ感じる東洋英和らしさがあればお聞かせください。
𠮷田小学部長:自己肯定感が高く、伸び伸びと成長していく子どもが多いように思います。保護者の方がお子様のことに熱心であり、お子様が愛情を一身に受けているからこそではないでしょうか。
溝口:伸び伸びというお話がありましたが、「遊び」も大切にされていらっしゃいますね。
𠮷田小学部長:校舎自体が子どもたちの遊びを大切にした設計になっていて、すべてのお教室からグラウンドにアクセスできます。また、私も驚いたのですが20分休みという中休みは20分間まるまる遊んでから教室に移動できるように次の授業開始まで5分間のインターバルが設けられています。
溝口:先生は複数の女子小学校の教員経験をお持ちですが、改めて女子校の良さはどのように感じられていますか。
𠮷田小学部長:女の子だけの集団というのは、勉強や行事に取り組む時に集中力の高さを含めてとてもスムーズであると感じます。ジェンダーバイアスという点では、女の子だから・男の子だからということを意識せず、1人の人間として成長していくことができます。「私は女の子だからこれは我慢しよう」といった場面がないということです。
3. 東洋英和に合うご家庭とは?

溝口:𠮷田先生は「受験について無理な準備はしなくていい、合う学校に入ればいい」という考え方をされていると思うのですが、女子だけのキリスト教教育に関心があるご家庭以外に「東洋英和に合う」ご家庭についてお聞かせ願いますか。
𠮷田小学部長:お子様のことを第一に考えるご家庭です。お仕事をされていても、お子様と接する時間が短くてもいいのですが、お子様を最優先して考えられるご家庭を求めています。
大岡:アンケートでお子様との平日の過ごし方について聞かれているのはそういった思いからなのですね。
𠮷田小学部長:お子様が親に気を使って相談できない、お子様が聞いてと言った時に保護者の方が後回しにしてしまう、そういったことはお子様にとって良くないと思います。お子様が「今日こんなことがあったらから聞いて」と言った時に「そうだったんだね」とお子様の目線で話を聞いてあげれば、お子様も安心して話すことができますよね。
4. 入学考査のポイントは?

大岡:2025度の考査は例年よりも30分長く時間を要し、考査内容も運動・行動観察・絵画・製作・生活巧緻性・ペーパーと多くの分野からバランスよく出題されました。広くお子様の様子を見られる考査だったのかなと思いますが、𠮷田先生が実施された変革の意図を教えていただけますか。
𠮷田小学部長:お子様はその日の体調や同じ組になったお子様との相性などによって崩れることがあります。それを駄目とするのは違うなと思う一方で、入学後のことを考えると学力が伸びるベースが求められます。どうすればより公平公正な考査となるかと考えた結果、できるだけ客観的に判断できるようにするためにペーパーの量や課題数を増やしました。
大岡:より公平性を求めて数字で測れるものの比重を増したということですね。
2025年度は話の記憶、見る記憶、音の記憶と記憶の問題に重点を置かれているほか、思考力の問題も多く、ちょっと考えさせる問題が増えているように感じました。
𠮷田小学部長:そうですね。ただ、ガリガリお勉強だけをやってきた子を求めているわけではないです。私たちは「あと伸び」するお子様を求めています。
大岡:では、最後まで全部できなければ駄目というようなペーパーにはなっていないと考えて良いでしょうか。
𠮷田小学部長:なっていないです。最後の方はできなくてもいい問題かもです。(笑)
入試問題は公表していませんが試験後に伝わるものなので、学校が何を大事にしているのかを発信する手段になると考えています。ですから普段の生活や遊びの中で身につく知識などの問題も増やしました。
大岡:例えば野菜の断面の問題は、野菜の断面を知っていることが大事ということではなく、ご家庭で保護者の方と一緒に料理を楽しんだり美味しく食べたりする経験を大切にしてくださいといったメッセージが込められているということですね。運動テストでは、ボールつきや縄跳びなど、ある程度の運動経験が必要な考査も出されました。お子様のどのような部分を見るためのものだったのでしょうか。
𠮷田小学部長:主に体幹の強さを見るために行いました。試験全般で感じることなのですが、体幹には5歳時点での賢さが表れます。体幹の強いお子様は集中力がありますし、言葉の指示だけで動ける集中力があることは、地頭の良さというか、その子のポテンシャルを感じます。
2025年度 東洋英和女学院小学部 特徴的な入試問題(ジャック調べ)

大岡:𠮷田先生は箸使いの大切さについてもよくお話しされていますね。
𠮷田小学部長:はい。全校保護者会でもお伝えしています。
大岡:ほかに重視されている点はありますか。
𠮷田小学部長:笑顔や柔和な表情ですね。自信を持っているお子様は強いと思います。
大岡:女子校の受験準備ではペーパーに意識が向くご家庭が多いのですが、ペーパーの比重やボーダーラインなどについてお聞かせいただけたら幸いです。
𠮷田小学部長:公平性を重視しているので、総合点で順位を出してそのまま上からの選抜です。ペーパーがすごくできていても、はさみで切ったり色を塗ったりする時に雑になってしまうお子様は、総合点では難しい結果になっていますね。
大岡:願書や面接は別枠と考えれば良いでしょうか。
𠮷田小学部長:別枠です。ただ、不思議なことに総合点と願書や面接は大体リンクしているように感じます。
大岡:「お子様を東洋英和に」という保護者の方の熱意が数値に反映されるということですね。
5. 願書や保護者面接のポイントは?

大岡:願書に関しては、「本校志望の理由をお書きください」という一枠だけというのが、ストレートだなと感じます。願書ではどのような点に注目されていますか。
𠮷田小学部長:全ての願書をしっかりと読みます。「東洋英和のどこがお子様に合っているのか」が明確に文章になっているとわかりやすいですし、学校に期待いただいていることが伝わってきます。本学に魅力を感じたきっかけやストーリーが各ご家庭にあると思うので、そういったものを大切にしていただけると良いのではないでしょうか。ぜひご夫婦で理想とする子育てやお子様の将来について話し合う時間を大切にしていただきたいです。小学校生活は6年間と長いですし小学校受験は「お子様にとっての一生の母校」選びなので、お子様にとっての最適解をじっくりと考えてみてください。
大岡:𠮷田先生は、すべてのご家庭の面接をされていると伺っています。「なぜ東洋英和なのか」というご質問には、どのような期待感が込められていますか。
𠮷田小学部長:私学には建学の精神があり、大事にしていることや校風が各校で異なります。合格できたらどこでもいいということではなく「なぜ東洋英和なのか」をお聞きしたいです。私たちも保護者の方の思いを感じる取るために全力で臨みます。
大岡:東洋英和に対する熱意をしっかり伝えてほしいということですね。
𠮷田小学部長:その通りです。私たちは志願者を増やすことではなく、本校の特徴や思いを伝えて「東洋英和がいい」と感じていただけるご家庭に受けていただくことを目指しています。その方が入学後のギャップがなくお互いにとって良いですね。
大岡:保護者の方とお話しされていて印象的なことは何でしょうか。
𠮷田小学部長:一生懸命お子様のことをご夫婦で考えているかどうかは、面接でにじみ出るように思います。回答に正解はないですし、上手にお話しいただくことも求めていません。「この保護者の方であれば、お子様を我が子のように6年間お預かりできる」と感じられるかどうかです。さまざまな質問をすることで、保護者の方の素を見たいと考えています。
6. 2030年竣工の新校舎移転に伴う計画は?

大岡:近隣地域の再開発事業に伴う元麻布校舎(仮校舎)への一時移転を経て、2030年竣工の新校舎への移転が予定されていますね。
𠮷田小学部長:現在は各学年1クラス40人の2クラスですが、これを1クラス20人にして、1学年4クラスにすることが決定しています。さらに教員が必要になるので今から良い人と出会えるように動いています。なお、新校舎は図書館を中心とした「知の出発点」をコンセプトに掲げ、蔵書数を2万5,000〜3万冊に増やします。
大岡:本などを通じた手触り感のある学びを大切にされるのですね。ICT教育についてはどのようにお考えですか。
𠮷田小学部長:ICT教育は3年生からネットの危険性なども含めて徐々に始めます。子どもたちは高学年になると自ら考えて伝えたいことを上手に発信しています。先日も子どもたちにAnneのInstagramに掲載するショート動画づくりを頼んだところ喜んで制作してくれました。
大岡:近年は校内に学童を設置する私立小学校もありますが、計画はありますか。
𠮷田小学部長:「学校はここまで、あとはご家庭で」というようにお子様をご家庭にお返ししたいので、今のところ学童の設置は考えていないです。もちろん放課後の課外活動として1886年に始まったピアノ科や2008年に始まったオルガン科などのレッスンは継続していきます。
溝口・大岡:本日はありがとうございました。
対談を終えて

「変わらずに 変わり続ける 東洋英和女学院小学部 𠮷田先生」
六本木の再開発という大きな環境の変化の渦中にある東洋英和女学院。「あの泰山木はまっすぐ動かして、あちらに植え替えるんですよ」と語る𠮷田先生の目は、長年子ども達を見守ってきた木の移転先だけでなく、未来を見据えている。
𠮷田先生は2022年に小学部部長に就任して以来、自ら先頭に立って、教職員の増員、考査内容の変更をはじめとするさまざまな取り組みを行い、変革を推し進めてきた。昨年はチャプレンを迎え、セラピードッグ「Anne」も今年4月から活動を始めた。一方で、ICT教育は3年生から、学童保育は行わないなど、生徒の為、職員の為にならないと判断したことには手を加えない。未来に向かって進化しつつも守るべき部分は守る一貫した姿勢で、新たな東洋英和を作ろうとしている。
今回の対談で最も印象的だったのは、「頑張ってきた幼児をできるだけ平等に見るため、数字で測れるものを増やすようにと教職員にお願いしました」と、考査について事も無げにおっしゃったことだ。事実、昨年の考査時間は従来よりも30分延長された。しかし、入学試験を変えるということは、膨大な時間と手間がかかるのはもちろん、長い歴史の中で培われてきたいわゆる「東洋英和らしさ」を求めるご家庭に敬遠される懸念もはらんでいる。その一言で済ませられるほど楽なことでは決してなかったはずだ。
考査に限らず、長らく続いてきたものや、もともとあるものを変えることは、時に一から作り上げるよりも難しい。困難にぶつかりながらも、様々な改革の責任を一手に引き受けて果敢に先導していく𠮷田先生の温和な笑顔が、東洋英和女学院の明るい未来と、さらなる人気の高まりを予感させた。
(ジャック広尾教室 副教室長 大岡久真)
東洋英和女学院小学部
学校法人東洋英和女学院が運営する私立女子小学校。東洋英和女学院は1884年にカナダ・メソジスト教会(現カナダ合同教会)によって設立され、現在は幼稚園から大学までキリスト教(プロテスタント)の信仰と聖書の言葉を土台にした人間形成・人格形成を重んじる一貫教育を行っています。

- 住 所:
- 〒106-0032 東京都港区六本木5-6-14 Google map
- アクセス:
- 東京メトロ日比谷線をご利用の場合:六本木駅下車。3番出口から徒歩7分
東京メトロ南北線をご利用の場合:麻布十番駅下車。5a番出口から徒歩7分
都営大江戸線をご利用の場合:麻布十番駅下車。7番出口から徒歩5分
東京メトロ千代田線をご利用の場合:乃木坂駅下車。3番出口から徒歩15分