暁星小学校 吉川学校長に聞く

「鍛える教育」の入り口、入試のポイントは?

日時:2025年3月開催 場所:暁星小学校

今回は、暁星小学校の吉川直剛学校長に建学の精神や、入学試験の狙い、保護者に意識してほしいことをジャック幼児教育研究所理事の大岡史直とジャックお茶の水教室長の岩城潤が伺いました。

ゲスト

  • 暁星小学校

    学校長 吉川 直剛先生

聞き手

  • ジャック幼児教育研究所

    理事 大岡 史直

  • ジャックお茶の水教室

    教室長 岩城 潤

1. 建学の精神とは?

岩城:暁星小学校について理解を深めるために、その始まりからお聞かせください。

吉川学校長:暁星学園は、日本における男子教育を目的としてフランスとアメリカから来日したカトリック男子修道会『マリア会』の5人の宣教師によって1888年に創立されました。マリア会は、聖母マリアから生まれたイエス・キリストの姿から学び、イエス・キリストを育てたマリア様の姿からも学ぶという精神を大切にしている修道会です。この思想は、まさに子育てや教育につながるものであると考えています。

岩城:「自分を大切にする」「他者を尊重する」「神を愛する」という教育理念の根底にある精神ですね。

2. 「鍛える教育」とは?

岩城:暁星といえば、創立以来136年間、男子校として「文武両道」「心技体」を教育方針とされてきました。暁星小学校の正門門柱にある「困苦や欠乏に耐え、進んで鍛練の道を選ぶ、気力ある少年以外は、この門をくぐってはならない」という言葉も有名です。「鍛える教育」というと、厳しいイメージが独り歩きしてしまいがちですが、学校では実際に、どの様な指導がされているのでしょうか。

吉川学校長:刀を作る際の「鍛錬」とは、卓越した技能を持つ刀鍛冶が、適切なタイミングでそれを熱し、打ち込み方を塩梅しながら、一心不乱に打ちつづけて日本刀を作り上げる様を表しています。人を育てる「鍛練」も、単に厳しくするだけで、子どもたちが育つわけではないのです。暁星での「鍛練」は、その言葉の前に「進んで」とあるように、「自ら成長していこう」、「自分の力を伸ばしていこう」という、『子どもたちの心を育てていくこと』が含まれています。「進んで鍛練の道を歩む」ということは、自分がその道を、言ってみれば、「良しとして進んでいく」、そういう子どもを育てていくことを意味しています。困難に対しても「進んで」挑戦する力を身につけさせることを大事にしています。

▲暁星小学校の正門門柱に掲げられている言葉。

3. 暁星特別活動とは?

岩城:暁星小学校では、通常の授業に組み込まれているクラブ活動以外に、暁星特別活動として「選抜サッカー部」や「聖歌隊」、フランス語を学ぶ「Stella(ステラ)」がありますね。

吉川学校長:それぞれが大変に活発な活動を行っています。特にサッカー部は練習が厳しいうえに、創部以来「文武両道」を掲げているので、勉強もしっかりできなければいけません。具体的には、成績が学年で何位以内に入っていなければ練習を続けることができないというハードルを設けています。その規定より成績が下がった場合は、練習停止の措置をとりますが、ほとんどの子どもが諦めずに一生懸命勉強し、復帰をしています。

大岡:退部させずに、サッカー部員として小学校を卒業できるような道筋をつけるということですか。それは、最後までやり切ることができたという自信につながりますね。

岩城:「暁星でサッカーをやりたい」というお子様がいるほど、学校としてサッカーに力を入れていらっしゃる印象です。

吉川学校長:校技としてのサッカーについては、体育の時間(2時間)に加えて、週1度の学年サッカーの時間(1時間)を設けています。サッカーを通じて、身体を鍛えるだけでなく、チームプレーを学び、勝ち負けの理不尽さも経験することで、心が鍛えられます。ここまで聞くと、「体操はサッカーしかやっていないのでは」と思われがちですが、きちんと他の種目の授業も行っていますよ。

大岡:中学への進学は、どのような規定を設けていますか。

吉川学校長:中学への進学に際しては、6年生の成績を内申点として、それに適性試験も併せた結果で基準を満たすことが必要です。もちろん上がれるように、しっかりと勉強させています。

4. 合宿を多く行う目的は?

岩城:学校行事の年間スケジュールを見ると、ほぼ毎月のように各学年の那須合宿が組み込まれていますね。男の子を育てるにあたって、この大自然を教材とした合宿の目的は何でしょうか。

吉川学校長:私どもの計画では、2年生から小学校を卒業するまでに32泊33日の合宿教育を行うこととしています。那須に自前の学舎があるので、準備や片付けを自分たちで全て行いながら、さまざまなグループ活動を経験します。例えばオリエンテーリングでは、いかに力を合わせてゴールをめざすのか。途中で力尽きてしまう仲間がいたらリュックを持ってあげたり一生懸命励ましたりしながら、お互いに助け合うことを理屈抜きで学んでいくのです。そして、回数を重ねるごとに団結力を強固なものにしていきます。

大岡:全てが教育の場であるということですね。子どもたちの記憶にも刻まれ、いつまでも「あの夏のあの日」を鮮やかに思い出せることでしょう。

吉川学校長:そうですね。同じ場所で合宿を行えることも大きな意味があると考えています。例えば、2年生から4年生までは春と秋に2泊3日の合宿を行うので、同じ風景での自然の移ろいを感じることができます。

5. 入学試験のポイントは?

岩城:私たちは毎年、入試ではどのような課題が出題されたのか、受験者から話を聞いています。2025年度の入学考査では、子どもの1次試験(ペーパー/運動)と2次試験(絵画製作/生活巧緻性/行動観察)、そして保護者へのアンケートと面接が行われたと思います。私は、心の教育を最も大切にするマリア会の教えの理解と、その実践の必要性が随所に反映された試験内容だったと感じています。例えば、1次試験のペーパーテスト「話の記憶」の問題では、思考力や知識だけでなく、「心の成長」を見る問題が組み込まれていました。具体的には、場面ごとに登場人物の子どもの表情(笑顔・泣き顔・怒り顔・困った顔など)が問われていました。

2次試験ではここ数年、「神様の話をお祈りの姿勢で聞く」、また「ロザリオを実際に持たせる」など宗教の基本となる心を落ち着かせるという課題があり、自分自身と向き合う大切さや、相手との共存を大切にする暁星小学校ならではの試験内容に感じました。

お差支えない範囲で、吉川先生から、考査や面接についてお話をいただけないでしょうか。

吉川学校長:最近の子どもの特徴として、同じ価値観を持つものしか友人関係を築かず、他者のグループに関心が向かない、そのグループにはじかれてしまうと行く場所がなくなりやすい。そのため、群れる力より、交わる力を付けていくことが大切です。だからこそ、試験でも自他を大切にするために、聴く力、相手に合わせる力を見ています。

大岡:1次試験についてですが、「ペーパーテスト」は学力を見るためのもの。「運動テスト」は、指示を聞いて動けるかを見るテストと運動能力を見るテストの両方を行っているという理解で良いでしょうか。

吉川学校長:そうですね。「運動テスト」は、運動している姿を見るのであって、技能を見ているわけではありません。普段どれだけ体を動かした遊びをしているのかを見たいので、日常生活でお父様、お母様と一緒に遊んでくださいということです。あとは、ご質問のように指示に対してきちんと動けるかどうか、待っているときの態度なども見ています。

大岡:ペーパーと運動の二本柱だとすると、ペーパーはできるけれど運動はお父様と普段から遊んでいるのに技能的な自信はないという場合、どのくらいまでを良しとしていただけるのか、入学後にお子様が困るから一定のラインを設けているのか、そこはどうでしょうか。

吉川学校長:本当にできているかできていないかのレベルで見ています。お父様と一緒にさまざまな運動や動きを通し、一生懸命にたくさん遊んでいれば、おのずと体力も運動能力もついてきます。ですので、お父様と一緒に遊んでいる程度で私は十分だと思います。入学後は学校で十分に鍛えていきますので心配はいらないですね。

大岡:「運動テスト」は、ここまできてほしいというラインさえクリアできればいいと。でもそれは、ペーパーが良くできたとしても、運動によって合格に届かない可能性もあるということですよね。

吉川学校長:トータルで見るので、そういうことになります。ペーパーも指示されたことをちゃんと理解して「答えを出せるかどうか」ですよね。運動は、指示されたことに対してきちんと「その通りに動けるかどうか」です。指示を聞いて、体を動かすのが運動であり、頭を動かして丸をつけるのがペーパーであるという、それだけの違いだと考えています。大事なのは、話を聞く習慣です。日頃からお父様やお母様が「こうしなさいね」と言ったことに対して反応できているかということですね。

吉川学校長:「運動テスト」は、「ペーパーテスト」でお子様を見てきた私どもが、別の側面からもお子様を見て入学の判定をさせていただきたいというところから始まっています。試験は短時間で行うものですが、少しでもお子様を多方面から見たいという願いがあります。

岩城:そうですね。校長先生は日ごろから、「ペーパーさえできていれば良いという考え方はなくしたい」とおっしゃっていますね。

私たちは、暁星小学校の「ペーパーテスト」はレベルが高いと感じていて、以前、校長先生がお話しされていたように「これができた上で」となると、お子様には集中力や思考力と併せて、言語力・推察力・常識など、総合的な力が必要だと思っています。また、「運動テスト」を普段の遊びの中で準備するとなると、お父様、お母様は、かなり頑張らないといけないですね。

2次試験では生活力や製作力をみるテスト内容もあるので、私たちは一定の準備は必要かと思っています。

2025年度 暁星小学校 特徴的な入試問題(ジャック調べ)

遠投では、投球線から足が出ないようにバレーボールを 約7m先の壁にある四角を目がけて投げます。「ボールを投げる」という運動1つを通じても、①指示を正しく理解する②足・腰・腕など身体全体を十分に使いこなす(運動連鎖)③遠投をする筋力の発達④眼から入った情報を処理して(視空間認知)目標までの距離・上下・左右などを認識できるなど、お子様の発達を複合的に確認することができます。(ジャック幼児教育研究所主催「入試速報セミナー」より)

大岡:テスト中、どのようなお子様が気になりますか。

吉川学校長:基本的に試験監督が各教室に2人いて、しっかりと見ています。例えば、「話を聞いているときは手を膝に」という約束を最初に伝えているので、それができていないと注意をします。私どもは、ご家庭で躾を受けていることを前提としているので、約束を守れなければチェックの対象になります。そのほか、カンニングや移動中の態度などもチェックしています。きちんとけじめをつけられるか、その場で求められる動きや態度を理解しているかを見ています。ちなみにですが、補欠のお子様も正規で入ったお子様も点数に大きな違いはないんです。

大岡:1点の差が、何十人の差になるということですね。入試では月齢考慮はしていますか。

吉川学校長:月齢考慮はしていません。年齢が低いほど月齢差があるとわかっていますが、小学校生活が始まると考慮はなく、小学校3〜4年で月齢差はフラットになります。また、入試でどの程度の考慮が適切かつ公平かの判断が難しいので、一切考慮を行わない方が公平であるというのが私どもの考え方です。ただし、課題でもあると認識しています。

6. 保護者の試験のポイントは?

岩城:保護者の試験について伺います。暁星小学校の願書には志望理由を書く欄がありませんが、毎年、出願と同時に「テーマ作文」の提出が求められますね。

吉川学校長:2025年度は、「冊子『暁星学園の歩みと教育方針』を読んで、自身にとっての『しあわせ』は何だと思われますか」といったテーマを設定しました。私は、全受験者のテーマ作文を読みましたが、文章から冊子をしっかり読んでくださったことがよくわかりました。テーマ作文の目的は、この冊子を読んでいただくことでしたから、私どもの教育方針を理解したうえで受験してくださったという、安心感がありますね。

大岡:昨今AIの発達により、本当に保護者が考えている文章ではないかもしれないという懸念はありますか。また、2025年度は約17年ぶりに試験当日「アンケート」が実施されましたので、その意図をお聞かせください。

吉川学校長:まず、AI利用の可能性は十分に承知したうえです。1次考査中のアンケートについては、学園を理解してくださっているかを確認するために行いました。

大岡:1次考査中のアンケートでは、併願校についても質問されていますね。

吉川学校長:そうですね。面接を担当している先生たちから併願校を知りたいという声があり聞くようになりましたが、神経を尖らせているわけではありません。

大岡:面接は10分ですよね。聞く項目は同じですか。

吉川学校長:聞く項目は同じですが、テーマ作文やアンケートをもとにした個別の質問を行い、保護者の方がどのような受け答えをしてくださるかを評価しています。

岩城:面接では、「育児・躾で課題となっていることは何ですか」「ご家庭での躾をどのようにしていますか」など、躾に関する質問が多くありますが、どのような思いからですか。

吉川学校長:私どもは、ご家庭での躾を重視しています。ですので、保護者の方の考え方を知りたいということです。

大岡:宿題が多いことや、男子校の良さをどのように思うか、教育理念への理解など、暁星小学校を受ける人であればわかっていることであっても、面接で改めて確認をしているそうですが。

吉川学校長:私どもも学校の特徴をいろいろな形でお伝えしているつもりですが、念押しのような思いでお話しをしています。

大岡:卒業生など、暁星とのゆかりは大事にされていますか。面接では保護者のどのような部分を見ているのでしょうか。

吉川学校長:卒業生は大事ではありますが、合否についてはお子様と保護者の方の努力次第です。面接では、受け答えからにじみ出るご家庭の品格を感じとるようにしています。

7. メッセージ

岩城:最後にこれから暁星小学校を受験したいと考えているご家庭にアドバイスをお願いします。

吉川学校長:何よりも私どもが望んでいるのは、私どもの教育を求めてくださるご家庭であり、前向きに頑張ろうという意欲のあるお子様です。試験はその場が勝負ですから、試験当日は、お子様にも緊張感を持って取り組んでいただきたいと思います。その日に至るまでの準備がしっかりできていれば、意識も高まって来るはずです。ペーパーや運動のテスト準備だけでなく、本当の意味での心の準備をしていただきたいですね。

対談を終えて

「厳しさの中に見えた信念  暁星小学校 吉川先生」

暁星小学校の校門には、「困苦や欠乏に耐え進んで鍛練の道を選ぶ気力のある少年以外はこの門をくぐってはならない」とある。この言葉通り、随所に厳しさのある学校だった。そしてそこに、確固たる信念を感じた。例えば5年生から始まる部活動。サッカー部員は学業成績が悪いと休部しなければならない。これを聞いて、中学への内部進学が危うい子を思い浮かべたがそうではなく、成績が一定ラインに達しなければ休部させられるという。また、休部させる理由も、「サッカーがやりたい」という気持ちを勉強へ向かうモチベーションとさせることにある。実際、ほとんどの生徒が短期間で成績を上げ、サッカー部に復帰するのだ。

もう一つ印象に残ったことがある。5歳児は月齢による成長差があるため考慮する方が公平だという考え方と、同じ学年なのだから入学試験において月齢を考慮するのは不公平だという考え方があるなか、暁星小学校はしていない。その理由を尋ねると、「月齢の差があることは百も承知している。しかし、入学してから月齢考慮をしないのに入試においてする必要はない」と即座に明言。この迷いの無さに、暁星小学校の凄みを感じた。
(ジャック理事 大岡史直)

暁星小学校

学校法人暁星学園が運営する私立男子小学校。小学校が1890年に、中学校が1920年に、高校が1948年に認可され、その後1969年に幼稚園ができ、現在の幼・小・中・高の一貫教育がスタート。キリスト教の理念に基づく教育により、人格の完成をめざすとともに、社会の福祉に努める人物を育成することをめざしています。

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