立教小学校 田代学校長に聞く

「お子様を丁寧に見る」考査とは

日時:2025年3月開催 場所:ジャック目白駅前教室

立教小学校の田代正行学校長に男子校で学ぶ意義や新校舎で実現したい学び、考査で大事にされていることについて、ジャック幼児教育研究所理事の大岡史直とジャック目白駅前教室長の渡辺純代が伺いました。

ゲスト

  • 立教小学校

    学校長 田代 正行先生

聞き手

  • ジャック幼児教育研究所

    理事 大岡 史直

  • ジャック目白駅前教室

    教室長 渡辺 純代

1. 男子校で学ぶ意義とは?

渡辺:立教小学校は、全国でも3校しかない男子校のうちの1校です。男子校だからこそできる教育、男子校でしかできない教育について、どのようにお考えでしょうか。

田代学校長:私が指導していて感じるのは、性別を意識することなく、伸び伸びと興味・関心を探求できるのが男子校で学ぶ意義だと思います。幼少期は男子と女子の発達にやはり差があると感じます。男女共学の環境では、どうしても女子の方がお姉さんになってしまうという状況もあると思いますが、男子だけでいるとその差を感じることなく伸び伸びと学校生活を送れる利が確かにあると思います。時として、男女共学では、男子らしさや女子らしさが強調されるシチュエーションもあると思います。本当は家庭科が好きな男子が、「女子っぽいかも」と、つい意識して恥ずかしがってしまうといったように。多様性が求められる時代だからこそ、男子校という選択肢が必要であるとも言えます。保護者の方には、お子様に合っているかどうか、よく見ていただけたらと考えています。

2. 新校舎で実現したい学びとは?

新校舎正面 提供:(株)石本建築事務所

新校舎グラウンドから 提供:(株)石本建築事務所

渡辺:立教小学校の新校舎が2026年7月に竣工し、9月より新校舎で授業を開始される予定だとお聞きしています。ホームページでイメージ動画を拝見し、私も完成が大変待ち遠しいです。新校舎には、先生たちのどのような思いが込められているのでしょうか。

田代学校長:一言で表すと、「男の子がワクワクする」工夫を詰め込んだ校舎になります。校門をくぐって庭を抜けると校庭に出られ、雨の日でも思いっきり遊べるプレイグラウンドもあります。校舎内には、交流スペース、読み聞かせスペース、創造ギャラリー、メディアセンターなどを設け、興味・関心を探究できるようにあらゆる場所に本が置かれます。教室の学びが校舎全体にあふれ出す、まさに学校全体が学び場であり遊び場である、そんなイメージですね。

渡辺:新しい校舎で、どのような学びが生まれるのか楽しみですね。

田代学校長:はい、新校舎はうれしいことですが、重要なのは中身ですからね。今まさに、教員たちと一所懸命にアイデアを出し合っていますが、核となるものは変わりません。例えば、「自分の考えを表現する力を育む」について。我々はコロナ禍でいち早くWeb授業を導入するなどデジタルツールの有効性を認識していますので、メディアセンターを新設しこれからも情報教育に力を入れますが、併せて、紙の上で手を動かし、自分の思いや考えを絵や文章で表現する「日記教育」も大事に守っていきます。鉛筆と消しゴムを自分の手先で使い、「自ら考えて、それを言葉にする」ということは、この年齢の子どもの成長にとって、「思考」と「五感」の両方を鍛えることとなり、デジタル教育と同等に大切なことだと思っています。次に、「広い視野と思いやりを育む」について。これまで同様、校舎だけでの学びにとどまらず、軽井沢に所有する小学校専用キャンプ場で、2年生から4年生の縦割りキャンプなどを行い、自然の中で協働し、五感を鍛えていきます。子どもたちには、多くの新しい実体験をさせて、自分で何かを進んでやっていこうという気持ちや感受性を育てなければなりません。現在、子どもたちにとって異学年は身近な異文化であり新たな「気づき」につながることから、異学年の交流授業を設けることや、校舎内で自然に交流できるような工夫も検討中です。「気づき」を子どもたちが「解決課題」として発展させていくことを楽しみにしています。

渡辺:「英語の立教」と言われるほど、質の高い英語教育が注目されていますが、小学校ではどのようなことを大事にされていますか。

田代学校長:我々は創立と同時に英語教育を始め、ETM(Education Through Music)という英語圏の言語・文化を背景とする歌の意味を体感する「遊び」を通し、英語の音に慣れ親しむ学びを取り入れてきました。ですが、英語はあくまでもコミュニケーション手段であるため、すべての基本は国語力であるという考えのもと、母語で自分の考えを表現する力や感受性を育み、さらに日本文化について伝えられる教養を身につけることも大事にしています。また、サマープログラムや留学プログラムを通じて、会話する楽しさを実感する経験も大きいと感じています。今後、英語以外の授業を英語で行うなどのチャレンジもしてみたいですね。

3. 考査を2日間行う理由は?

渡辺:考査について、保護者の方から様々な質問を受けています。可能な範囲で結構ですので教えていただけないでしょうか。まず、2日間かけて考査を行うのは、先生方も大変だと思うのですが、どのようなお考えがありますか。

田代学校長:我々が大切にしているのは、お子様を丁寧に見るということであり、そのために2日間いただきたいということです。説明会でもお話ししているのですが、我々は絵に描いたようなピカピカしたお子様を求めているのではなく、本質を捉える力があり最後まで粘り強く取り組めるお子様を求めています。そのようなお子様は、自分の興味関心のあるものを見つけたときに、大きな力を発揮します。ですので、考える力や考える過程を見られるような考査を準備しているつもりです。

具体的には、「個別」と「集団」に分けて、それぞれお子様の顔を見ながら授業のような考査を行っています。大岡先生・渡辺先生にも共感いただけると思いますが、子どもは、ひらめいた瞬間、すごく良い表情になりますよね!そんなお子様を見るのが私たちの楽しみでもあるので、粘り強く取り組んでいれば最後にひらめいて解けるような課題づくりを大事にしています。

大岡:「この子はここまでよく考えたね」という過程を見ることができる、非常に手をかけて検討された入試問題と考査のやり方ですね。いわゆる「地頭の良い」お子様を見つけたいという思いがあるということが良くわかりました。

渡辺:立教小学校では、「読み聞かせ」の問題も毎年、出題されていますね。

田代学校長:そうですね。私たちは、考査に向けて「訓練」をしてほしいのではなく、ご家庭での育みや、幼稚園・保育園での生活を大切にしていただきたいのです。ですので、「読み聞かせ」は、あくまでも親子の時間として良いものであるという考えから、考査に入れています。

渡辺:体操では「模倣」や「創作ダンス」が行われていますが、お子様のどういうところをご覧になっているのでしょうか。

田代学校長:ダンスや体操が上手にできるかというのは、あまり見ていません。指示をしっかり聞いて動くことができるか、体幹がしっかりしているか、落ち着いて順番を待つことができるか。そして、みんなと一緒に楽しみながら参加できるかといったところを見ています。「ワンテンポ遅れてしまうけれど、一所懸命やっている」のであれば減点はなく、「ダンスが得意で、オリジナルでやってしまう」としても減点・加点はありません。ただ、すごく良い動きをしているお子様がいたら、教員同士で「ほかの考査でも輝いてくれるといいいね」といった情報交換をすることはあります。

大岡:年度によって、考査の内容をガラリと変える学校もありますが、立教小学校はいかがでしょうか。例えば、ペーパーテストを取り入れるなどは。

田代学校長:私たちは大きく変える予定はありません。ペーパーを早く大量に解ける力が求められる時代ではないと考えていますし、ペーパーでは先ほどご説明したお子様の魅力や、コミュニケーション力、社会性なども分からないですよね。

渡辺:月齢について心配される保護者の方もいます。月齢の違いについて、配慮などはされているのでしょうか。

田代学校長:月齢をもとに、午前と午後に分けて考査を行います。考査の内容は同じですが、ゆっくり説明するなどの配慮はしています。また、合否については月齢別に合格人数を決めているわけではありませんが、極端な片寄りはないようにしています。

大岡:それぞれの考査ごとに合格ラインを定めているのでしょうか。例えば、1つでもそのラインに極端に満たないものがあると、合格が厳しくなるのでしょうか。

田代学校長:「この点数は取ってほしい」というのは定めています。考査終了後に、各項目の点数や考査時の様子などのバランスは確認しています。

大岡:考査ごとに最低これくらいの点数は取ってほしいというのはあるけれど、一律で切るようなことはなくバランスも見るという、総合型判定と言えそうですね。「ペーパーでこれだけの点数を取れる集団」ということではなく、いろいろなお子様がいて、それぞれの持ち味を活かし合えそうですね。

2025年度 立教小学校 特徴的な入試問題(ジャック調べ)

学校の授業と同じスタイルですが、先生1名に対して、お子様1~2名での実施です。

「説明」「発問」「練習問題」「本番」と、少しずつ難易度を高めていく、丁寧な考査です。もちろん、単に、正解不正解を問う課題ではありません。問題を連続して解いていく過程で、先生の話を一生懸命に聞けるか、楽しく取り組めるか、お子様に気づきやひらめきの「成長」はあるかなど、一人ひとりの思考力全般を測っていると推察します。立教小学校がどのようなお子様を見出したいのか、その明確な思いや意図を形にされた1問です。(ジャック幼児教育研究所主催「入試速報セミナー」より)

4. 保護者面談の位置付けは?

大岡:保護者面接では、どのような点を見ているのでしょうか。

田代学校長:私は主に、保護者の方が本気で本校にお子様を託してくださるのか、学校を理解して協力してくださるかをみさせていただいています。例えば仕事に関するお話をしていただいたときに、詳しく教えてくださいとお伝えすることがあります。業界知識がなくても分かりやすいような説明をしてくださる保護者の方は、きっとご家庭でもお子様が分かりやすいように伝える工夫をされていて、良い親子関係を育んでいるのだろうなと想像します。また、学校運営に協力的かなども、伝わってくるように思います。

大岡:分かりました。ただ、面接では、保護者の方の人柄などは一応感じ取るけれど、合否判定については、あくまでもお子様の評価に基づくということですね。

5. 志望度の見極め、合否への影響は?

大岡:面接では、併願校の確認をされていますか。

田代学校長:確認しないです。

大岡:すると、立教小学校の志望度については、どのように判断されるのでしょうか。

田代学校長:3回実施する学校説明会のときに行うアンケートの回答を、私は熟読しております。学校説明会は3回とも内容が異なり、各回でアンケートの提出をお願いしています。それは、私が一番伝えたいと思っていることが、ちゃんと保護者の方に届いているのかを確認するためです。そして、文章から本校への関心度や志望度も伝わってくるように思います。

大岡:仮に第1志望ではないと感じられる場合、合否に影響することはないのでしょうか。

田代学校長:面接同様に、まず、お子様の評価ありきです。合格した方が抜けられたときは、お子様に最善の学校を選ばれたのだろうなと思いますし、我々は補欠を出していくので、ほかのお子様とのご縁につながると考えています。

大岡:立教はファミリーを大切にしている学校だと感じますが、受験に際して家族や兄弟が立教であるかどうかは影響がありますか。

田代学校長:もちろん卒業生は大事ですが、我々は閉鎖的な学校にしたいとは考えていません。先ほどもお伝えしたように、お子様の成績が合格範囲に入っていれば、ご家族や兄弟の学校がどこであろうと、必ず合格です。ただ、双子の方が受験されたときは、「仮にどちらかが合格水準で、どちらかがそれに満たなかった場合、1人でも入れたいと思っておられるか」はお聞きしています。といいますのも、切ない思いがずっと続くのだけは避けたいからです。

大岡:双子の方が受験されているときに、そのような確認をされるのは、愛がありますね!

渡辺:毎年4月から行われる「教育相談」については、いかがでしょうか。

田代学校長:教育相談は、お子様の健康上の問題など、就学に際してどうしてもご相談したいことがある方のみお受けしています。当然ながら考査には影響しないので、そういった状況以外で教育相談にお越しいただく必要はありません。

大岡:最後になりますが、立教小学校の先生は、田代学校長から見てどのような先生が多いですか。

田代学校長:男の子40人をひきつける術を持った先生ばかりですね!毎日、子どもたちと「日記」のやり取りをしていますので、一人ひとりのことを深く理解し、時には心の痛みに共感し、愛情を持って接していると感じます。これからも、専門性を磨き、影響し合い、共に立教小学校の未来をつくっていきたいと思います。

大岡・渡辺:本日はありがとうございました。

対談を終えて

「ウキウキは今、ワクワクは未来  立教小学校 田代先生」

立教小学校では新校舎を建設中だ。どんな校舎になるのか尋ねると、「雨の日に男の子がワクワクするような校舎を作りたい」とおっしゃる。この一言で田代先生のファンになった。“ウキウキは今、ワクワクは未来”。そんな素晴らしい校舎で小学校生活を送ることのできる未来の生徒が羨ましい。

また、2日間行われている入学試験を1日にすれば、受験者はもっと増えるのではないかとの問いかけに、「ペーパーテストならば一度に考査が可能だが、我が校のテストは先生1人に対して生徒2人のノンペーパーテスト。今後伸びる生徒を入学させるためには丁寧に選抜する必要がある。私が校長をしている間は、2日間の入試日程は変えるつもりはない」と話されたことも印象的だった。

一方、男子校の良さについては、男同士の深い絆を強調しておられた。小学校で一緒にやんちゃした男の友情は、損得抜きで生涯続くのだろう。

以前、田代先生に、私の著書を謹呈させていただいたのだが、対談中何度もその本から話を引用され、机の上には、多くの付箋がつけられた拙書が見えた。とても丁寧に読んでくださっていることに感謝。

意気投合し大いに盛り上がった対談だった。オフレコの内容も多く残念ながらすべてを公開することはできないが、立教の校長先生らしい男気を感じた。(ジャック理事 大岡史直)

立教小学校

学校法人立教学院が運営する1948年設立の私立男子小学校。立教学院は建学の精神と理念に基づき、小学校から大学、大学院まで約20年の人格形成期を俯瞰した一貫連携教育を行っています。その中でも、立教小学校は一貫連携教育の入門期の役割を果たし、立教小学校における経験が、中学校、高校、大学における学びの堅固な土台となっています。

住 所:
〒171-0031 東京都豊島区目白5-24-12 Google map
※立教小学校は新校舎建設に伴い、2024年4月より上記の住所に一時移転しています。
アクセス:
西武池袋線「椎名町駅」から徒歩3分