JAC幼児教育研究所

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チンパンジーからの教え

2019年1月10日 09:00

とても興味深い文献をご紹介します。

『実験室のガラスの向こうに、赤い鉛筆が三本置かれる。チンパンジーはそれを見て、前にあるキーボードと称される図形文字を表示したセット台に向かい、鉛筆、赤、三というボタンを押す。正解だとホロホロと音がして、好物の干ブドウが三個、横の皿に出てくる。間違うとブーとブザーが鳴り、何もほうびは与えられない。
勉強に行くのは、好物の干ブドウがほしいからだろうというのが常識的な解釈である。たしかに始めはそうなのだが、しだいに状況が変ってくる。彼らは問題を解くこと自体に興味を示すようになってくるのだ。そうなると、問題を解いたとき、もはや干ブドウが出てこなくてもよい。ホロホロという「合ってるよ」を示す音だけで十分なのだ。あるいは、実験者が顔を見せてにっこり笑う、といったことで満足する。

〜中略〜

やさしい問題を続けて出すと、チンパンジーは飽きてしまって、自分の体を毛づくろいしたり、他の物をいじくったりしてあそびはじめる。一方、難しい問題が続くと、初めは一生懸命に取り組むが、間違いが続くとしだいに腹を立て、イライラしだし、そのうち勉強室の中をいきなり走りまわったり、拳で壁を叩いたりする。攻撃性が湧出し、問題を解こうという意欲を押しつぶし、乱暴な行動に出るようになる。
では、彼らが一番勉強に熱中するのはどういう場面かというと、現在持っている能力レベルより少し難しい問題を出したときである。そうすると、チンパンジーは大変熱心にキーボードに向かい、問題を解くために努力する。これは大変興味のあることで、チンパンジーは干ブドウがほしくて勉強しているのではないことを示している。干ブドウにつられて勉強しているのならば、やさしい問題が続いて出される場合が一番いいわけで、キーボードを押しては干ブドウをどんどん手に入れることができるはずである。やはり、問題を解く楽しさが、チンパンジーを勉強に向かわせているということなのだ。』 【河合雅雄著「子どもと自然」岩波新書より】

サル学の権威として知られる霊長類学研究者河合雅雄先生は、子どもの自然教育にも力を注いで来られた方です。1990年初版発行のこの本では、人間の発達における自然の果たす役割と、これからの教育はどうあるべきかという大きな課題について、サルの社会とも比較しつつ考えを述べられています。大変おもしろく、子育ての参考になることも多いので、興味のある方は読まれるといいと思います。

ところで、今回ご紹介したのは、勉強に取り組むチンパンジーの姿について語られている部分です。実は、私が非常に興味を持ったのは、ここで語られているチンパンジーの様子が、人間の子どもととてもよく似ているからです。例えば、子どもたちにごほうびを用意して学習に取り組ませると、最初のうちはごほうびが欲しくてがんばります。ところが、次第に問題を解く喜びや楽しさを知り、そちらの方が重要になってくる―――ごほうびも欲しいけれど、それだけではなくなるのです。その証拠に、簡単な問題や易しい問題ばかりやっていると、集中力が低下し、返ってつまらないミスや間違いをするようになります。反対に、問題が難しすぎてできないことばかりが続くと、やる気が無くなって学習を嫌がるようになってしまいます。

 

この本には、『チンパンジーは現在持っている能力レベルより少し難しい問題を出したときに一番勉強に熱中する』とありますが、子どもも同じです。今持っている力よりちょっと上の問題が、一番集中するし、熱心に取り組むし、できたときの満足感も感じられるものなのです。

ですから、家庭学習でもこの点をしっかりと踏まえて進めることが重要です。今、どのレベルの問題をやればこの子が最大限の力を出せるのか、集中して取り組むことができるのかということを常に考え、その子に合った問題を与えてやることが、家庭学習の効果を高めることにつながるのですから。

 

 

〜次回の掲載は1月17日(木)の予定です〜

キーワード:小学校受験