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いたずらきかんしゃちゅうちゅう(年中)

いたずらきかんしゃちゅうちゅう(年中)

作 バージニア・リー・バートン
訳 むらおかはなこ
福音館書店

あらすじ: ”ちゅうちゅう”という名前の小さな機関車がありました・・・

あるところに、小さな機関車がありました。名前は“ちゅうちゅう”。真っ黒くて、ピカピカ光っている、きれいなかわいい機関車でした。機関士の“ジム”と、機関助手の“オーリー”と、車掌の“アーチボ ールド”を乗せ、客車や貨車を引いて、小さな街の小さな駅と、大きな街の大きな駅を行き来するのが、“ちゅうちゅう”の仕事でした。
ある日、“ちゅうちゅう”は、「私一人なら、もっともっと早く走れるんだ。そしたらきっと、みんなが私に注目し、褒めてくれるに違いない」と考え、すきを見て走り出してしまいます。
思った通り、早く走ることができました。けれど、ルールを知らない“ちゅうちゅう”は信号も踏み切りも無視し、みんなに迷惑をかけて怒りをかいます。上がっている跳ね橋を飛び越え、街を抜け、原っばを通り、田舎へ向かった“ちゅうちゅう”は、古い線路に迷い込んで動かなくなってしまいました。辺りはずいぶん暗くなっていました。一方、“ジム”と“オーリー”’と“アーチボールド”はと言えば、“ちゅうちゅう”を連れ戻そうと奔走していました。最新式の汽車に協力を頼み、全速力で“ちゅうちゅう”を追いかけ、40 年も使っていない古い線路に迷い込んでいる“ちゅうちゅう”を見つけたのでした。

評:黒一色のコンテ画は力強さを、美し文字の配列からは愛情を感じられる絵本です

機関車が大好きな長男、アリスのために作ったと言われる、バージニア・リー・バートンの最初の作品。大判サイズに描かれた黒一色のコンテ画は、躍動的で力強く、迫力が感じられますし、絵の流れを考慮した美しい文字の配列には、栂親らしい繊細な心遣いと愛情が感じられます。
もちろん、ダイナミックな物語の展開も魅力的です。『自分一人なら、もっと早く走れるのに・・・』と考え、深く考えないまますぐに行動に移してしまうところや、逃げ出してからの無鉄砲で無我夢中の行動には、幼い幼児の奔放な行動力が感じられます。そう、“ちゅうちゅう”は、子どもの化身なのです。だからこそ、子ども達は、“ちゅうちゅう”に共感し、 ドキドキしながら冒険を楽しむのです。
一方、“ちゅうちゅう”の乗員も魅力的です。“ジム”、“オーリー”、“アーチボールド”の3 人の表情や行動からは、”ちゅうちゅう”に対する深い愛情が読み取れます。子どもは、両親を始めとする周囲の大人達の温かい目に見守られ、ときに助けられて成長していくのだと言っているかのようです。
最近は、カラフルな色彩の絵や、かわいらしいキャラクターの登場する絵本が好まれる傾向が強く、書店に並んでいるのもこうした絵本が主流です。だからこそ、意識して、このような力強い本格派の絵本に触れる機会を作っていただきたい。そう、切に願います。