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あらしのよるに(年長)

あらしのよるに(年長)

文 木村 裕一  
絵 あべ 弘士
講談社

あらすじ: 勘違いしたままヤギとオオカミは話を続け、やがて不思議な友情が芽生え…

荒れ狂う嵐の夜、白いヤギはやっとの思いで丘を滑り降り、壊れかけた小さな小屋へと潜り込みました。暗闇の中で体を休めていると、誰かが小屋に入ってきます。「何者だろう?」ヤギはじっと身を潜め、耳をそばだてます。と、コツン、ズズ、コツン、ズズー。硬い物が、床を叩いてやってくる音がします。「ひずめの音だ!それならヤギに違いない」。そう思い込んだヤギは、安心して声をかけました。「すごい嵐ですね」。これがすべての始まりでした。実は、入ってきたのは、ヤギの肉が大好物という強暴なオオカミで、ヤギがひずめの音だと思ったのは、足をくじいたオオカミの杖の音だったのです。
ところが不思議なもので、相手の姿がまったく見えない上に、鼻風邪のせいでニオイも分からないものだから、互いに自分の仲間だと思い込み、いろいろな話をし始めます。話せば話すほど、二人は互いの共通点を見つけ、親近感を覚えます。何度か誤解が解けそうな瞬間もありますが、肝心なところで、運良く雷がなったり、目を閉じたりして、やっぱり誤解は誤解のまま。ようやく嵐が止んだ頃には、互いにすっかり気を許し、友情さえ芽生えていました。
「明日のお昼を一緒に食べよう」と約束し、左右に分かれて家路についた二匹の影。翌日何が起こるのか、それは誰にもわかりません。

評:互いにまったく違う場面を想像していながらも、会話は立派に成り立ってしまうという、おもしろく不思議な絵本です

この本は、荒れ狂う嵐の夜の真っ暗な小屋の中という特殊な環境下で出会った、利害関係をまったく異にするヤギとオオカミが、誤解の上に誤解を重ね、ついには友情を育むという物語。一つ間違えば、食べる者と食べられる者になる二匹なだけに、種を知っている読者は、 どこでばれるか、いつばれるかと、ドキドキしながら読み進めていくことになります。とてもスリリングな展開です。
互いにまったく違う場面を想像していながらも、会話は立派に成り立ってしまうというのもおもしろく、不思議な感じです。
この物語のテーマは、対立する二者の友情でしょうから、小さなお子さんには難しいかもしれません。けれど、嵐の夜の真っ暗闇の中でのヤギとオオカミのスリリングな物語は、それだけで、ちょっと怖くておもしろいお話として、理解力のあるお子さんになら、充分に楽しめると思うのです。
お子さんの理解力を見ながら、行けそうだと思ったら挑戦してみてください。

【参考:シリーズ あらしのよるに】
『第 2 部 あるはれたひに』『第3 部 くものきれまに』
『第 4部 きりのなかで』『第 5 部 どしゃぶりのひに』
『第 6 部 ふぶきのあした』