絵本紹介絵本紹介

えんぴつびな(年長)

えんぴつびな(年長)

文 長崎 源之助
絵 長谷川 知子
金の星社

あらすじ: わたしの宝物は、ちびた鉛筆で作ったおひな様…

空襲で焼け出され、田舎の町に引っ越して来た“わたし”。新しく入った学校で隣りの席になったいたずらっ子の“シンペイちゃん”は、はじめての日、「これ、やるよ」と緑色の小さな物を置きました。それは小さなカエルでした。都会育ちの“わたし”は、カエルに飛びつかれて心底ビックリしてしまいます。
やがて“シンペイちゃん”が意地悪でそんなことをしたのではなく、歓迎するつもりで「いいもの』をくれたのだとわかります。さらに、“シンペイちゃん”は、なかなかみんなに溶け込めないでいる“わたし”を、 なにかとかばってくれるのでした。
ある日のこと、“シンペイちゃん”が、「いいもんやるよ」と握りこぶしを突き出しました。でも、最初の日のカエルが忘れられない“わ たし”は、なかなか手を出すことができません。どうしようかと思っていると、“シンペイちゃん”はじれったそうにパッとこぶしを開きました。それは、小さなえんぴつで作ったおひなさまでした。空襲で全てを失った“わたし”を思って、“シンペイちゃん”が作ってくれたのです。“わたし”がとても喜んで眺めていると、“シンペイちゃん”が言いました。「あした、三人官女も作ってきてやるよ」。
けれど、『明日』は来ませんでした。その夜空襲があって、“シンペイちゃん”は家と一緒に焼け死んでしまったのです。
大きくなった“わたし”にとって、“シンペイちゃん”からもらったえんぴつびなは、今でも大切な宝物です。

評:実際にあった戦争の話。実体験を語って聞かせることができない今だからこそ…

アフガニスタン、イラク、パレスチナ…世界では今も戦争が起こっているにも関わらず、日本はとりあえず平和です。悲惨だった太平洋戦争が終わり60年近くが経過しようとしている今、親も、祖父母でさえも戦争を知らない世代となり、戦争の悲惨さを直接伝承できる人々は、子どもの周囲からいなくなりつつあります。さらに、テレビや新聞、雑誌等で伝えられる実際の戦争からは、人々の悲しみや痛みは見えてきません。子ども達にとって、すでに『戦争』は、映画やドラマ、 ゲームでのお話。そんな彼らに「戦争はいけない」と口で言っても、その真意がどこまで伝わるのか…、ときに不安になることがあります。
この「えんぴつびな」は、少年の素朴な姿が表情豊かに描かれる前半に対し、後半は一変して暗い、悲しい雰囲気になります。「えんぴつびな」にまつわる“わたし”の美しくも悲しい思い出を通し、戦争の切なさや痛みが等身大で語られているだけに、小さな子ども達にもストレートに伝わると思われます。
日本には、太平洋戦争をテーマにした絵本がたくさんあります。実体験を語って聞かせることができない今だからこそ、この作品のような優れた絵本を読み聞かせ、『戦争』について考える機会を幼い頃から作ることが必要なのではないかと思います。