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ろくべえまってろよ(年中)

ろくべえまってろよ(年中)

文 灰谷 健次郎     
絵 長 新太 

あらすじ: 深く真っ暗な穴から、犬の”ろくべえ”の声がします。どうやら、穴に落ちてしまったらしいのです・・・

 5人の1年生が、穴を覗いています。穴は深くて、真っ暗です。でも、下の方から犬の“ろくべえ”の声がします。どうやら、穴に落ちてしまったらしいのです。何とか助けなくては…。5人の1年生は考えますが、救出方法がわかりません。高学年の子はまだ学校だし、お父さんもいません。5人は相談して、それぞれお母さんを連れてきました。
ところが、お母さんたちは穴を覗き込んで、わいわいがやがや言うだけで、ちっとも役には立ちません。そのうち、わいわいがやがや言いながら、帰ってしまいました。
そうこうしているうちに、“ろくべえ”の元気が無くなりました。心配になった5人は、“ろくべえ”を元気づけようと、大きな声で歌を歌いました。“ろくべえ”が好きなシャボン玉も吹きました。けれども、“ろくべえ”は動きません。
5 人は、口をきゅっと結んで、頭が痛くなるほど考えました。そして、名案を思いつきました。それは、“ろくべえ”の恋人の“クッキー” をカゴに入れて穴の中に下ろし、喜んだ“ろくべえ”がカゴに入ったところを吊り上げるというものでした。
さっそく 5人はとりかかりました。ロープとカゴを用意し、ふたつをしっかり結びました。 5 人が力を合わせ、細心の注意を払って実行した救出計画は、見事大成功!子ども達は、子ども達だけで“ろくべえ”を助けることができたのでした。

評:絵と文を楽しむ時間から、 物語を楽しむ読書への移行段階の絵本としてもおすすめです。

 5人の子ども達による、穴に落ちた、犬の“ろくべえ”救出劇。母親も、通りすがりのおじさんも、大人は誰一人として本気で“ろくべえ”を助けようとはしない中、小学校1年生の5人だけが、自分達の知恵と力で、“ろくべえ”を無事助け出すというストーリーが爽快です。
子ども達は、 5人の1年生と共に、“ろくべえ”を心配したり、助け出す方法はないかと考えたり、本当に“ろくべえ”を助け出せるだろうか、計画は成功するだろうかとドキドキしたりして、絵本の世界を満喫することでしょう。そして、見事救出に成功したラストシーンで は、読者である子ども達の心にも満足感が広がるに違いありません。
穴を覗く心配そうな5人と、穴の中で心細げな“ろくべえ”が交互に登場する前半に対し、計画を実行するクライマックスでは、穴の中の様子だけが続きます。にもかかわらず、暗い穴の中をじっと見ながら、慎重に“クッキー”を入れたカゴを下ろす5人の息遣いまでが聞こえてきそうな気がするのは 、前半で5人の表情が効果的に表現されているからなのでしょう。素朴な水彩画にも好感が持てます。
主人公は1 年生ですが、年中の後半ともなれば、内容は充分に理解できますし、楽しむことができるはずです。絵と文を楽しむ時間から、 物語を楽しむ読書への移行段階の絵本としてもおすすめです。