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ピーターのいす(年少)

ピーターのいす(年少)

作 エズラ・ジャック・キーツ 
訳 きじまはじめ
偕成社

あらすじ: 妹が出来た“ピーター”は、ちょっと複雑。

妹が出来た“ピーター”は、ちょっと複雑。ちょっと大きな音を立てれば、「赤ちゃんがいるのよ」と叱られるし、小さい頃に使っていたゆりかごや食堂のイス、ベビーベットも、知らない間にピンクに塗り替えられています。お父さんもお母さんも、赤ちゃんのことで忙しそうなのも気に入りません。
ふと見ると、自分が小さい頃に座っていたイスが、青いままで置かれていました。ピーターは、そのイスを持って家出することにします。 おともは、愛犬の“ウィリー”だけ。
大切な物を持って家を出たピーターは、家の前に陣取ります。しばらくイスに座っていようと思ったのです。ところが、ピーターのお尻は大きすぎて、赤ちゃん用のイスに入りません。ふくれっつらで立っていると、お母さんが窓から顔を出し、「お家に帰っておいで」と声を掛けます。けれど、ピーターは知らん顔。そのうちピーターはいいことを思いつきます。家の中にそっと戻って、お母さんを脅かそうというのです。
ピーターの計画はまんまと成功し、ランチの時間になりました。大人用のイスに座った“ピーター”は、隣りに座ったお父さんに、「あの小っちゃなイス、“スージー”のためにピンクに塗ろうよ」と言い、 ランチの後で塗りました。

評:子どもは子どもなりに考え、葛藤しながら成長していくのだなぁと、改めて思わせる絵本です。

弟や妹が生まれたときの上の子の心理は複雑です。両親を始め、周囲の大人達に、「赤ちゃんが生まれてよかったね。かわいがってあげてね」などと言われれば素直にそう思いますが、反面、両親や周囲の大人の愛情が、赤ちゃんに奪われてしまうのではないかという漠然とした不安も大きいのです。
この絵本は、自分が小さい頃に使っていたイスを妹に譲らなければならなくなった“ピーター”の心の葛藤を通し、赤ちゃんの存在を受け入れていくまでの上の子の心の動きを見事に描き出しています。子どもは子どもなりに考え、葛藤しながら成長していくのだなぁと、改めて思わせる絵本です。“ピーター”に寄り添っている愛犬“ウィリー’’の存在が物語の世界を広げる名脇役となっている点にも注目です。
なお、黒人一家の日常を温かい眼差しで描き出している絵は、さまざまな素材を使ったコラージュ(張り絵)によって作成されています。子ども達が自分でも紙を切って何かを描こうとするときの見本にもなりそうな、見事な出来映えです。

【参考:ピーターシリーズ】
『ゆきのひ』 「ピーターのくちぶえ』 『ピーターのめがね』
『ピーターのとおいみち』