絵本紹介絵本紹介

こんとあき(年中)

こんとあき(年中)

作 林 明子
福音館書店

あらすじ: “こん”と“あき”は、おばあちゃんのところへ行ってみることにしました

おばあちゃんに赤ちゃんのお守りを頼まれて、“さきゅうまち”からやってきた“こん”が、ベビーベットの前に座り、赤ちゃんを待っています。待ちくたびれて眠った“こん”が目を覚ましたとき、ベットには赤ちゃんが眠っていました。ちっちゃくて、かわいい赤ちゃん。 “こん”は嬉しくて、胸がドキドキしました。
赤ちゃんは、“あき”という名前でした。“こん”と“あき”はいつも一緒に遊びました。“あき”が大きくなるにつれ、“こん”は古くなっていきました。そしてある日、とうとう“こん”の腕がほころびてしまったのです。そこで二人は、“さきゅうまち”のおばあちゃんのところへ行って直してもらうことにしました。
長い間電車に乗り、ようやく“さきゅうまち”に着いた二人は、おばあちゃんの家に行く前に、ちょっとだけ砂丘に行ってみることにしました。砂丘はとても大きくて、初めて見る“あき”はびっくりします。二人は砂の上に足跡をつけました。すると突然、松林の中から犬が出てきて、“こん”の匂いをかいだと思ったら、パクッとくわえて砂山を登って行ってしまいました。“あき”は、犬の足跡を追いかけましたが、犬はどこにも見当たりません。「こーん」と呼んでも返事もありません。心配になった“あき”が足元を見ると、“こん”が埋められているのに気づきました。すっかりボロボロになってしまった“こん”をおんぶして、“あき”はおばあちゃんの家に走ります。おばあちゃんは、“こん”をあちこちよく調べ、しっかり縫いつけてくれました。それから、三人でお風呂に入りました。“こん”はすっかり元気になり、おまけにきれいになりました。

評:キツネのぬいぐるみの“こん”は、ただのぬいぐるみではありません・・

“こん”は、おばあちゃんが“あき”のために作ってくれたキツネのぬいぐるみですが、ただのぬいぐるみではありません。おしゃべりもするし、電車の乗り方も知っているし、途中の停車駅でお弁当を買って来ることもできます。その上、“あき”が不安になるたびに、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と励ましてくれる、とても頼りになる存在なのです。ぬいぐるみが歩いたり、話したりするなんて、現実には絶対に有り得ないことなのですが、それがちっとも不自然ではないところが、この絵本の最大の魅力です。尻尾がドアに挟まれてぺしゃんこにつぶれてしまった“こん”を気遣い、薬箱を座席まで持ってきて包帯を巻いてくれる車掌さんも、とても自然に描かれています。この本の中では、“こん”は確かに生きているのです。幼い女の子にとって、お気に入りのぬいぐるみや人形というのはこういう存在なのかと、今更のように感心してしまいました。
さて、ほころびた“こん”の腕を直してもらうため、おばあちゃん の住む‘’さきゅうまち”へ向かう二人の旅路はスリルに満ちています。 お弁当を買いに出たまま“こん”がなかなか戻らないシーンや、砂丘で犬に連れ去られた“こん”を探すシーンなど、ドキドキしたり、ワクワクしたり、心配したりしながらお話を楽しむことができます。とりわけ女の子にとっては、忘れられない大切な絵本になりそうです。