絵本紹介絵本紹介

おしいれのぼうけん(年長)

おしいれのぼうけん(年長)

文 ふるたたるひ
絵 たばたせいいち
童心社

あらすじ: けんかをしたさとしとあきらは、先生に叱られておしいれに入れられてしまいます・・・

さくら保育園で怖いものは、押入れと先生たちがやる人形劇に出てくる“ねずみばあさん”です。
ある日のお昼寝の時間、“さとし”と“あきら”は追いかけっこを始めました。寝ているお友だちの上をまたいで走り回り、お友だちの手を踏んだり、足を蹴ったり…。担任の“みずの先生”の注意も無視して暴れた二人は、とうとう押入れの中へ入れられてしまいます。
「ごめんなさい」と素直に謝ればすぐに出してもらえるのに、二人 は強情を張って黙ったまま。暗い押入れの中でじっとしていると、み んなが怖がっている“ねずみばあさん”が、おびただしい数のねずみを引き連れて出て来て、二人を食べると言い出したから、さあ大変! 二人は驚き、手に手を取って逃げ出します。
二人の大冒険の始まりです。トンネルをくぐり抜け、高速道路を走り、下水道を泳ぎ、とうとう星の世界まで行きつきます。すっかり疲れた二人が、押入れの中でうとうととし始めたとき、押入れの戸がガラリと開いて、二人は外へ出ることが出来ました。
次の日から、“みずの先生”は、子どもを押入れに入れなくなりました。今では、押入れと“ねずみばあさん”は、さくら保育園の楽しいものになりました。

評:自分が冒険をしているようなワクワク感でいっぱいになります

今では、悪いことをしたら押入れに入れられるなんてことは無くなりましたから、子ども達にも、押入れが怖いところだという観念がありません。それでも、この本が子ども達の心を捉えて離さないのは、押入れの中で繰り広げられる“さとし”と“あきら”の冒険が、とても魅力的だからです。ファンタジーの世界における二人の大活躍に、 子ども達は心を躍らせます。自分の想像力をフル活動させて、さらに大きなファンタジーの世界を作り上げていきます。自分が冒険をしているようなワクワク感でいっぱいになるのです。
さらに、“ねずみばあさん”という大きな敵に対して、どちらかがくじけそうになるたび、もう片方が手を差し伸べて元気付けるというのも、かっこいい。男同士の友情です。小さくても、“さとし”も“あきら”も、立派な男なのです。
柔らかいタッチの鉛筆画には派手さはありませんが、登場人物の豊かな表情が細かく描き出されていて、見る者を楽しませてくれます。見るからに気の強そうな“さとし”と、どこか頼りない“あきら”の対比も効果的ですし、予想外の子どもの反応に困惑する若い先生の表情も見事です。
年長児、特に男の子には、ぜひ読んであげていただきたい作品です。
【参考:ふるた たるひ&たばた せいいちコンビの作品】
『ダンプえんちょうやっつけた』