絵本紹介絵本紹介

いやいやえん (年長)

いやいやえん (年長)

文 中川 李枝子
絵 大村 百合子
福音館書店

あらすじ: 「いやいやえん」に行った”しげる”。そこは好きなことだけできる保育園でしたが…

“しげる”は、ちゅーりっぷ保育園のばら組に通う、4歳の男の子。ある朝、“しげる”は、保育園に行く時間になっても、顔も洗わず、着替えもせず、朝ご飯も食べないで、駄々をこねています。原因は、お父さんのお土産が赤い自動車だったことと、今日着て行く服がお姉ちゃんのお下がりだったこと。「赤は女の色だ、女の色の自動車なんか嫌だ」と怒り、「女の服なんか着ない」とシャツのままでいるのです。何を言っても、何をしても、「いやだ、いやだ」の“しげる”に手を焼いたお母さんは、シャツと半ズボンで喚く“しげる”の腕を引っ張って、無理やり保育園に連れていきました。
保育園では、“しげる”の様子を見た先生が、別の保育園を教えて くれました。そこが「いやいやえん」でした。「いやいやえん」は、好きなことだけができる保育園でした。嫌いなものは食べなくてもいいし、嫌いなことはしなくてもいいのです。子ども達は、エプロンをかじったり、指をなめたり、お友だちが遊んでいるおもちゃを横取りしたりとやりたい放題。お片付けの時間になっても、おもちゃを片付ける人は誰もいませんし、お弁当の時間には、みんなが好きな物だけを食べています。「いやいやえん」は、とても良い所です。
ところが“しげる”は、「いやいやえん」にはもう来ないことにしました。そして、「明日になったら、ちゅーりっぷ保育園に行くんだ。やっぱりおもしろいよ」と言ったのでした。

評:幼児図書の名作。保育園の日常と、空想の世界が織り交ざり、子どもたちの世界がさらに広がっていきます。

表題作の「いやいやえん」を含む、7つの物語。暴れん坊できかん坊の4 歳の男の子“しげる”の保育園生活が、生き生き と描かれています。その一方で、大海原にクジラを取りに出かけたり、クマの子が保育園に通ってきて一緒に過ごしたり、保育園を休んで原っぱで遊んでいてオオカミに食べられそうになったり、遠足に行った森で、木から体が抜けなくなって、鬼の子に助けてもらったりと、空想の世界での遊びもふんだんに取り入れられ、幼児でなくても楽しいお話に仕上がっています。教訓的な押しつけは一切なく、あくまでも、幼い心の芽が明るく前向きに伸びていくようにとの配慮が見られるのは、保母の資格を持つ作者ならではと言えるでしょう。
1957年、同人誌に発表されたこの作品は、後に福音館書店から発行されるとさまざまな賞を受賞しました。以来、半世紀近くに渡って多くの子ども達に愛され、親しまれてきたロングセラーです。
177ページからなるこの本は、あくまでも活字が中心。絵本というよりは、挿絵の多い本といった様相で、絵を楽しみながらお話を聞くというスタイルでしか絵本を楽しめないお子さんには抵抗があるかもしれません。が、年長児ともなれば、この程度の物語は集中して聞いていて欲しいところです。全体はかなり長いのですが、一編一編はそれほどでもないので、慣れないうちは「今日はこれとこれにしようね」と選んで読み聞かせると良いでしょう。