理事の総括

2026年度入試を振り返って

ジャック幼児教育研究所理事 大岡 史直

試された易者の能力

「子どもにわかりやすい授業をするための研究を怠らない学者であれ、子どものやる気を起こさせるような、楽しくて面白い授業を演じる役者であれ。そして、豊富な経験でベストな志望校の選択ができる易者であれ。この三つが揃えば一流の塾の先生だ。」この仕事に就くと決めた時に恩師から贈られた言葉だ。この言葉通り、今年も易者としての私の力を試されることとなった。

 その子は神奈川県の3校と都内の4校に出願していたのだが、まず、都内の学校の面接日と神奈川の学校の入試日が重なったため、第一志望の都内の学校を受験するために神奈川の3校のうち1校を辞退することになった。その後、都内の第一志望と併願校の入試日が重なることがわかり、どちらを受けたらよいかと相談を受けた。そこで私は、「神奈川の併願校で合格をいただければ第一志望、そうでなければ少しでも合格しやすい併願校を受けた方が良いかもしれない」とアドバイスした。というのも、残りの3校も10倍を超える高倍率だったからだ。保護者も納得した様子で電話を切ったのだが、その二日後、神奈川の併願校が不合格だったとの連絡が入り、再度、保護者から相談を受けた。その際、電話の向こうからひしひしと伝わってきたのは、どうしても受けたい、受けなければ後悔するという気持ちだった。そこで私は、第一志望の学校別クラスを担当している指導者と協議し、既に終わっている面接の様子・学校と子どもとの相性などを考慮して、最終的に第一志望の受験を勧めた。
 結果は、第一志望のキリスト教の学校に合格!ただし、他の学校にはご縁を頂くことがなかった。第一志望の学校にご縁を頂いて良かったという安堵感に包まれるとともに、受験の厳しさを改めて感じた出来事だった。
 もう一人、神奈川の学校にご縁を頂けないまま都内の受験に挑む子がいた。彼女はキリスト教の女子校3校に願書を出していたが、2校の受験日が重なったためどちらかを選択することに。神奈川の結果が思わしくなかったため、保護者に迷いが生じていた。
 難関校であってもそこに照準を合わせてしっかりと準備をしてきた学校を諦め、合格しやすいとは言っても準備していない学校を受けることは、前述のご家庭と同様簡単なことではないが、このケースでは私と保護者との考えが一致し、合格する確率を重視して受験する学校を選んだ。しかし結果は不合格。この時点で残すは1校。知らせを聞いて、さすがに私も追い込まれたが、超超負けず嫌いなお母様は、気丈にも「明日の入試、がんばります」と力強い言葉を残し、電話を切った。
 翌々日、生徒から「先生のおかげで合格しました」と電話が入った。私は思わず「おめでとう!」ではなく「ありがとう!」と言ってしまった。

 志望校について相談を受けた際、多くの指導者は、変更して不合格になることを恐れたり、変更して合格しても『第一志望を受けても受かっていたのではないか』という疑念が保護者に生まれて不満に感じたりすることがあるので、『決めるのはご家庭です』と責任から逃れようとする。もちろん、最終的な決定権はそれぞれのご家庭にあるのは言うまでもないが、果たしてそれで良いのだろうか。
 志望校の選択に正解はない。今回の2つのケースも、生徒達の勝負強さに助けられただけで、結果オーライに過ぎない。受験は勝負事。流れが悪いときに一歩でも引いたらその渦に巻き込まれる。だからといって戦略なき無謀な受験は得るものがない。重要なのは、「人を見て法を説け」、保護者から相談されたときに信頼してもらえるような関係性を普段から構築するとともに、そのご家庭にとって最善な選択を見通せる、真の易者力を磨いていきたい。

デジタル採点の導入

 今年度、入試において初めてデジタル採点が聖心女子学院で導入された。デジタル採点とは、お子様たちのペーパーをスキャンし、AIが自動採点、もしくはPCの画面上に多く(例えば20人)の解答を一斉に表示して採点するものである。聖心女子学院では、数年前から中・高等科の中間テストや期末テストなどの定期テストで導入されており、その経験とノウハウを基に今回の入学試験での採用に踏み切ったのであろう。最大のメリットは、採点や集計作業の時間が大幅に短縮できるため合格発表が早くできることである。聖心女子学院は例年、考査が11月1日、合格発表が3日だったが、今年は2日になった。そのため、聖心が第一希望で合格した方は、3日以降の学校は受験せずに済み受験生の負担が減ったことは間違いない。また、あってはいけないことではあるが、人の手による採点や集計ミスがなくなることもメリットの一つである。大きなデメリットは思い当たらない。

 そのため、今後多くの学校でデジタル採点が導入されていくと思われるので、その対策についても考えておく必要がある。小学校受験のペーパーでは、選択肢の中から正しい答えに〇をつける、あるいはその数だけ〇を書くというような問題が多い。あまり〇が雑だとAIが〇だと認識してくれない場合もあるため、雑に書いてはいけない。きれいに書く必要がある。△や□などの他の印、あるいは間違いの訂正方法(✕、//、Z、Nなど)なども同様に正確に書くことが大切である。先生だったら、お子様の解答の意図をくみ取ってくださることができるが、AIはどこまでくみ取れるか不明である。例えば、隣り合う「リンゴ」と「バナナ」のちょうど間に〇がついていた場合、「バナナ」には一度〇をつけて訂正した形跡があれば、この子は「リンゴ」につけたと先生だったらくみ取ってくださるだろうが、AIは「リンゴ」と「バナナ」の絵により多くかかっている方を答えとするのではないだろうか。だからこそより正確に印をつける必要がある。

 また、1枚に同様の問題が5問あったとする。普通は下にいくほど難易度が上がる。それによってお子様がどこまで理解しているかわかるからである。1,2問目は正解、3,4問目は間違い、でも5問目は正解という場合、その子の理解度は2問目までで、5問目はたまたま当たったという可能性が高い。その場合、先生には見抜かれて点数をくれるのだろうか・・・AIはどうだろうか。もしかしたらその逆かもしれない。どちらにしてもどこまで見抜くかわからないからこそ、とにかく答えを最後まで書ききることがますます必要となる。

私立小学校 × ジャックの対談

聖心女子学院初等科 藤原校長・中塩副校長に聞く「良く生きる」を大切にする聖心の考査とは?

体操 教室での運動を、家庭で復習し発展させることが必須

 小学校受験における体操のテストの目的は、体に力がついているかを確認することにあり、ここでいう体の力には、体力、走力、跳力、投力、バランス力などがあげられます。実際の考査においても、運動の基本である「走」「跳」「投」とバランス能力を見る問題が多く出題される傾向が見られます。
 学校により出題方法はさまざまで、見る観点も大きく2つにわかれます。

1)体の力と心の力。

 例えば暁星小学校のテストは、例年、走る、ジグザグドリブル、ボールを上にあげ手を3回叩いてキャッチしてから遠投する、ケンケンでスタートし、フープの中をジグザグにグージャンプで帰ってくるというものでした。これらの動きが年齢相応以上に出来ているか否かは、体育の先生ならすぐにわかります。
 しかし、今年は変化があり、遠投は、サッカーのスローインのように両手で頭上を通して投げるように指示され、ケンケンからジグザググージャンプは、クロス跳びに変わりました。だが、学校が観たい力や能力は変わっていません。
 遠投では、腕だけではなく体重を移動し身体全体を鞭のようにして溜めた力を最大限にボールに伝える技術と力が問われます。この力がなければ、ボールは下に叩きつけられてしまうでしょう。もし遊びの中でボールを扱っていれば、片手で投げたり、両手で投げたり、走って勢いをつけて投げたりといった動作が自然に生まれ、リリースのタイミングもつかめます。それによって、ボールでも、紙飛行機でも、初めての課題であっても、自然に体が反応し、投げることできるようになります。
 クロス跳びも同様です。クロス跳びは足をクロスしながらリズミカルに跳ばなくてはならないので、左右の脚力に加え、体をふらつかせない体幹とバランス力が必要です。
 今回の変化は、ご家庭で本当に必要な力をつけていらして下さいという、学校側からのメッセージのように感じます。
 さて、今年は暁星小学校だけでしたが、同じような課題が何年も続いている成蹊小学校、東京女学館、横浜雙葉なども、今後変化する可能性があります。
 そこで、体操の授業で、例えば『30秒片足バランスをし、一度足を着いてから反対の足に変えて30秒片足バランスをする』という動きをしたならば、それだけを復習するのではなく、アレンジした動きも練習しておきましょう。例えば、右足ケンケンからそのまま左足にスイッチしてケンケンをすると、さらなる集中力やバランス力が育まれます。
 このように、授業でやったことにアレンジを加えながら1年間継続して取り組んでいけば、例え課題に変化があっても、自然に身体が対応し能力を発揮できるはずです。

2)小学校の授業を受けるために必要な力。

 多くの小学校で課せられる、摸倣体操や指示体操がこれに当たります。先生の動きをそっくりそのままマネをするのが模倣体操で、先生の話を聞いて約束通りに行動するのが指示体操です。どちらも複雑な運動技術は求められない動きなので簡単だと思われるかもしれませんが、実は、子どもにとっては大人が思うほど楽なものではありません。
 例えば、洗足の摸倣体操では、モニターに映し出される先生のマネをしたり、指示に従って動いたりします。テスト中は、音楽が流れたらモニターの先生と同じ動きをし、音楽が止まったら動きを止めます。また、先生の動きに合わせて、その場でゆっくりのグージャンプから早いグージャンプへと変化させ、音楽が止まったら停止。再度音楽が鳴ったら、先生と同じように、その場でスキップ、そしてケンケンをします。そして最後は、「先生と一緒にカエルになってください」と言われ、「もっと元気に跳ねてください」と言われたら高く跳ねます。
 ここで重要なのは、映像を、傍観者として見るのではなく、これから自分が行うこととして見ることです。学校側は、映像を小学校の授業に置き換えて、指示に従って正しく動くことができる子は、勉学に励むことのできる基礎があると見ているのでしょう。集中して話を聞ける子は自己コントロールが上手なので、「今は大切な時だ。聞き逃してはいけない」と自分にスイッチを入れて注意力を高めることができます。つまり、学校側は、摸倣体操や指示体操ができる子は、学習能力が高いだろうと期待を持っているのです。
 しかしながら、そのような力は一朝一夕につくものではありません。ぜひ、ジャックYouTubeチャンネルで配信されている模倣体操の動画を存分に活用し、ご家庭でも練習をしていただきたいと思います。

 今年度も、多くの学校でさまざまな問題が出題されましたが、小学校受験においての体操は、教室での授業に加え、ご家庭でどんな経験をどれだけしているかが大きく影響すると感じました。

「ペーパーと体操ができれば暁星に合格する」は一昔前のこと

 暁星小学校は都内にある男子校ですが、配膳(箸置き)、箸使い(ビー玉)、道具箱の片づけ(棚から指示された本を持ってくる、先生の前に行きファイルと紙を取ってくる等)、靴の着脱、粘土で好きな食べ物を作るなど、以前なら女子校で出題されることの多かった内容が、多々出題されています。ジェンダーレスと言われている時代だからこそ、性別に関係なく、身の回りのことを丁寧に行う習慣が身に付けているかを見ているのでしょう。

 内容的には、普段から家庭で保護者の方と一緒に行っていれば、練習したり教えたりしなくても十分対応できるものでした。また、粘土制作の課題は、好きな料理を作るでした。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は有名な壁画ですが、キリスト教において食事は神聖な意味を持っています。キリスト教の学校だからこそ、あえて食をテーマにした課題を出したのではないかと推測されます。

 AIとの共存が不可避とされる現在、幼少期に備わっていて欲しい能力にも変化が見られるようになっています。その一つが基礎的な思考力。従来のテクニックや量、詰込みの力に代わって、どれだけ創意工夫をして学びと遊びを融合させているかが重要視されるようになっており、暁星小学校のペーパーも、正誤だけでなく子どもの考え方を見るものへと変化しています。
 また、過去にもペーパーで正しい配膳を選ぶ問題や箸使いが出題されましたが、今回は二次試験で、箸置きを用いた正しい配膳、箸使いが出題されました。学習院でも『レンコン1つと鰹節の袋3つではどちらが重いか』が出題されており、単純な数の感覚ではなく、「生活に密着した知識」が一つのテーマになっているようです。

 とはいえ、従来のような運動やペーパーができなくても良いということではありません。学校が求める根幹の部分は何も変わってはおらず、元気な子を求めていることも変わりません。ただ、すべてが完璧にできる事を求めているわけではないので、幼少期に求められる力をしっかりと身につけておくことが、1次試験を突破する鍵となります。
 また、諸注意が多かったことも今年の特徴でした。列を乱す、おしゃべりをしている、親子で合流したときに自分勝手な行動をする、などの観点があったようで、元気であると同時に、気持ちの切り替えができる、今しなければいけないことを幼児ながらも意識できる、そうしたことを家庭が意識して育てているなど、家族の意識を問われています。
 こうした課題からは、学校のことをちゃんと理解して受験し、入学して欲しい、試験のために配布された冊子を熟読し、理解した親に来て欲しいという学校側のメッセージが伝わってきます。学校と保護者が価値観を共有していれば、家庭でも学校と同じ感覚で子どもを育てる事ができるというお考えなのでしょう。だからこそ、試験に受かるために対策をするだけでなく、学校を理解し求めている家庭に近づくことが、合格を手にするために重要です。

 さて、社会が急速に変化するなか、時代に合った教育と、変えてはいけない歴史と方針を見出すことが、今の時代に生きる教育です。例えば、昔から暁星の合宿教育は厳しいというイメージが強く、そこを懸念して暁星を敬遠する保護者がおられるかもしれませんが、社会生活にはルールがあり、それを守った先に自由があることを忘れてはいけません。暁星小学校の求める厳しさとは、自身に課す厳しさであり、社会で生き抜くための力を養い、人のために尽くせる人を目指す教育があるからこその厳しさなのではないかと、今年の入試を分析して改めて感じました。

私立小学校 × ジャックの対談

暁星小学校 吉川学校長に聞く「鍛える教育」の入り口、入試のポイントは?

早稲田実業学校初等部 大改革!校是「去華就実」校訓「三敬主義」を全面に出した新入試

 2026年4月に創立125周年を迎える早稲田実業学校。その2026年4月に入学する児童を対象とした今年度の入学試験で、大改革が起きました。

 最初にその兆候が現れたのが、9月中に提出する願書。例年の「志望理由」に、「去華就実、三敬主義についての考えを簡潔にご記入ください」というダイレクトな問いが加わりました。入学前から学校の考えを理解し、それをすでに家庭生活に活かし子どもを導き育て始めている親かどうか、入学後すぐに同じ目標に向かって歩み始めるための見極めだと思われます。

 次に、60分の1次試験。「ペーパー」「絵画製作」「生活習慣・巧緻性」「運動」「行動観察」と、昨年までと同じ項目を実施しつつも、今年度は子どもに求める力を、

  • 話を聞く姿勢が整っており、見聞きしたことを理解する力
  • 論理的に考え行動する力
  • 判断力
  • 学校生活を送るうえで必要な衣食住における自立した力
  • 困難な事でもあきらめず工夫しやろうとする根気強さ
  • 感謝の気持ちを持ったやさしい心

と明確に示し、シンプルな内容でそのすべてが測られました。根底には「このような力がつくように育ててきた親なのかを見る」という学校の考えがうかがわれます。もちろん125周年を迎え、新たな教育改革を実施していく上で、スムーズに学習を進めるのに必要な能力を備えた子かどうかも見られていたのだと思われます。

 さて、1次試験の詳細は学校研究会に委ねるとして、ここでは2次試験の親子面接について触れておきます。
 今年度は面接室が一部屋増え、一家庭にかける時間も5分増えて15分になりました。親子とも質問数が増え、「学校と同じ方向を向いている親か」を、じっくり判断していたようです。
 保護者には

  • お子様の成長から「三敬主義」を感じることは何ですか
  • 家庭での約束事は何ですか、「三敬主義」と家庭での取り組みを絡めてお答えください
  • 困難に立ち向かうためにどのようなアドバイスをしますか

といった質問がなされました。
 一方子どもに対しては、

  • オモチャを独り占めして遊んでいる子がいたらどうしますか→それでも貸してくれなかったらどうしますか→それでも嫌だと言ったらどうしますか
  • 小学校で苦手な事があったらどうしますか→どうやって頑張りますか

などと、通り一遍の応答では終わらせず、何度も質問を繰り返し、それでも何とか食らいついていこうという気迫のある子、自分で突破しようとする自立した子を見極めていたようです。

 このように、今年度の入試は、早稲田実業学校の校是「去華就実」と校訓「三敬主義」を全面に押し出し、「去華就実」「三敬主義」を真に理解し、それを子育てで実行している親であり家庭であるかを見極める要素がすべてに含まれた内容になっていました。そこには、新たに始まる歴史を共に刻んでいくことができる親か、そしてその親にきちんと丁寧に育てられてきた子かどうかを的確に見極めるという、学校側の強い意志が感じられます。

 「去華就実」とは字のごとく「華やかなものを去り実に努める」すなわち「外見の華やかさを求めるのではなく内面の充実を図ること」ですが、それだけでは物足りません。その根底にある、「日々の努力を重ねる誠実さ、根気、粘り強さ」を踏まえ、日々の生活をきちんと丁寧に行うことにつなげる必要があります。一方「三敬主義」とは「他を敬し、己を敬し、事物を敬す」ですが、ここにも、「感謝の気持ちを持ち、何事も丁寧に行う姿勢、思いやる心、謙虚さ」が含まれています。こうしたことを、子どもの、問題に取り組む様子や、物を扱う所作、友だちと関わる姿勢から読み取り、願書と面接で保護者の真の理解度を測ったのだと推察されます。
 早稲田実業学校を目指すならば、早い段階で「去華就実」「三敬主義」をしっかりと理解し、それを日々の子育てで具現化することが必要です。生きていくために必要な衣食住の常識は一朝一夕では伝えられませんし、便利になった今の世の中では、親が見つけ敢えて与えていかなければ、子どもが身に付けるのは困難でしょう。
 当研究所では、「どの時期にどんなことを」「何のために」「どのように」と、計画的に組み立て、子どもと保護者を導いていきます。やみくもに「試験に出たから練習させる」のではなく、学校の考えを分析し、「何が出題されても突破する真の力」を育んでいきます。

私立小学校 × ジャックの対談

早稲田実業学校初等部 菱山校長に聞く「三敬主義」につながる入学試験とは?

慶應義塾幼稚舎で求められるのは、圧倒的なアドリブ力と楽しむ力

子どもの本当の姿を問い続ける幼稚舎

 長らく幼稚舎では、子どもが絵画や製作をしている最中にテスター(先生)が近づいてきて、作品をきっかけとした質疑応答を行い、子どもの受け答えを見るという試験が行われてきました。そのため、我が子が先生と会話できるテーマを厳選し、それにまつわる絵だけをとにかく練習するといった行き過ぎた対策をする保護者もおられました。
 しかし近年は、そうした偏った対策を回避しようとする学校の意向を感じます。
 今年は、月齢別にわけられた6日の考査のうち、4日はお話作りやクイズの出し合いなど、いつもの作品を中心とした質疑応答とは異なる先生方とのやり取りが出題され、残りの2日も、絵画の前に紙飛行機を飛ばしたり、描いたものを倒したりして遊ぶなど、子どもの素の様子を引き出す試みが多く見られました。

【試験の概要】女子

 最初に、モニターに黒塗りのウサギの絵やはりねずみの絵が表示され、「これはなんでしょう」とクイズが出されます。子どもたちが答えた後に「こういうものをシルエットと言います」と説明があります。
 次に、細長い黒画用紙の帯に、色々な種類の穴あけパンチを使って3センチほどの○☆♡などの形をたくさんくり抜きます。1/4画用紙に「もらって嬉しかったものの絵」をクレヨンで描き、先ほどくり抜いた○☆♡の黒い形を描いた絵の上に載せて絵を隠します。先生方が回ってきて、「これは何だろう?」「○○ですか?」「なにかヒントをください」などといったやり取りを1対1で交わし、当たってもはずれても、形を避けて答え合わせを行います。
 こうしたシルエットクイズを何人もの先生と行いました。
 そして、クイズの後で、「別の画用紙にそれを使っているあなたの絵を描きましょう」という指示があり、絵を描きます。その後、例年通りに作品についての先生方との質疑応答がありました。

 この試験では、準備された会話ではなく、クイズという形で、初めて会う大人とも物おじせずに楽しいやり取りを交わすことができる力が評価されました。先生は何の絵かわかっていてもあえて間違え、ヒントを求めることもありましたので、ヒントの出し方からも子どもの思考力を測っていたのでしょう。一方で、「なぜそれをもらうと嬉しいのか」「それがなぜ宝物になるのか」といった質問もあり、普段練習してきたことを表現するチャンスもありました。

【試験の概要】男子

 最初に、「みなさんも旅行に行ったときに見たことがあるかな? 『顔はめパネル』というものを作りますよ」という発問のもと、画用紙を折って円を切り抜く指示製作が行われました。
 その後、ゴリラの『顔はめパネル』に顔を当て怒っている表情の先生がモニターに映し出されました。「なぜ怒っているのでしょう?」というクイズが出され、続いて、「正解は、サルにリンゴを取られてしまったからです」という言葉と答えの絵が見本として映し出されます。「では皆さんも驚いたときの顔はめパネルと、何で驚いたのか答えがわかる絵を描きましょう」という指示で、クレヨンで画用紙に絵を描きます。
 質疑応答では、「どんな顔になったのかやってみせて」と言われ顔を穴に当てて表情をつくり、それを見た先生が「こういうことで驚いているのかな?」と思いついたことを言います。当たっても当たらなくても、「正解は何の絵ですか?」と言われ、どういう状況で驚いたのかのシチュエーションを説明しました。
 こちらも、驚いたときの絵ということで、テーマとしては授業で練習をしてきた内容です。そのため、自分の得意な事や好きな事に結び付けて描くことができたようです。一方で、「驚いた顔をやってみて」と言われて対応する素直さや表現力。さらに、一方的な発表ではなく、先生とのクイズを介したやり取りで絵の内容を伝える必要があります。ご縁をいただいた子の多くは、「先生とこんなこと話したんだ」「こんなことを言ってきたから、違うよ、正解はねって教えてあげた」などと、テスターとやり取りした様子を楽しそうに伝えてくれました。

 昨年の「話の続きを創作する」「お友達同士でやり取りを行う」に続き、今年もまた「イラストを選んでお話を創作する」「絵と関係の無い話で先生とやりとりを行う」「作ったもので遊ばせて様子を見る」といった事前に練習ができない課題を行っており、子どもの本当の力を見極めようとする意志を感じました。
 当研究所には、受け答えを磨くことに特化した「聞き取り話し方」というクラスがありますが、今後は幼稚舎のクラスでも、対話力の強化に取り組んでいく予定です。家庭でも子どもと会話をする時間を作り、夢中になって会話を楽しめる子に導いてほしいと思います。テレビや携帯電話といったあらゆる情報を限りなく遮断し、子どもの言葉に集中してリアクションを取る、ときには、わかりやすい言い回しやより細かな表現を添えて質問を投げ返す、そうした積み重ねによって対話力のある子に育てていくことが、画力や巧緻性に加えて今後より一層求められていくでしょう。

慶應横浜初等部 受験者数が減少傾向でチャンスが広がる

 慶應横浜初等部の入試は、神奈川校でありながら都内校の受験が落ち着いた11月中盤から後半に実施されるので、誰にでも受験するチャンスがあります。受験者数は昨年と比較すれば微減だったものの、直近3年間で約1割に当たる140名弱減少しています。高倍率の学校ですから、受かりやすくなったとまでは言えませんが、チャンスは確実に広がったと言えるでしょう。

 1次のペーパーテストの倍率は約3倍です。重ね図形・同絵発見・作業・話の記憶の4枚ですので、1問の正誤が合否を分けました。
 重ね図形は、黒と黒を重ねると黒、白と白は白、黒と白は灰色になる条件で、左の2枚を重ねた時に、正しいものを右から選ぶ問題です。男女月齢によって問題は異なり、月齢が上がると難易度も上がります。すでに回答に〇がついている練習問題を見ながら発問を聞くので、容易に問題は理解できました。ところが、いつもの問題に「黒と白は灰色」だけの条件が加わっただけで、子どもにとってはほぼ初めての問題と化し、灰色になる部分を着実に考えていく地頭と注意力がものを言いました。

 下の絵の発見のペーパーでものを言ったのは、注意力とスピードです。男女で問題は異なりますが、1つの図形をかなり細かく集中して見つけていく必要があります。各段に正答は3~4個ずつあるため、注意深く段の最後まで見比べなければなりません。特に下の問題は、旗の色、手の挙げ方、表情が違っているので、部分化して素早く見比べる力が必要です。

 当研究所には地頭を鍛える動画クラスがあり、その中で毎回、注意深く見る問題、スピードを先生と競う問題、そして初めて見る問題を、楽しくトレーニングできる内容になっている。前述の通り、子どもにとって今回の重ね図形のように少し発問が違っただけで、限りなく初めての問題に近くなります。地頭クラスを受講し、内容をご家庭で日課のように親子で楽しみ、着実にスピード・注意力・思考力を高めたことが今回の1次テストの格好の対策となり、合格に繋げたご家庭が多くありました。

 2次テストでは、体操と行動観察、製作テストとそれに続く行動観察が行われました。製作では、男女月齢によって異なる「魚釣り」「音楽会」といったテーマに沿った課題がそれぞれに出題されました。

■「すごろく」がテーマだった男子

 1人に1つ上下が開いている段ボール箱が配られ、自分がサイコロのコマになるという課題でした。段ボールには、肩にかけられるようにスズランテープがついており、それを台紙に、材料机に用意されている色画用紙や紙コップ・モール・紙テープなどを取ってきて、ハサミ・セロテープ・クレヨンを駆使して作ります。コマですから、動物・もの・乗り物などの指定はなく、子どもたちは各々得意なものを作ることができました。ヘラクレスオオカブト、タイムマシン、トビウオ、レッサーパンダ、インコなど、思い思いのコマを作ったようです。ここで鍵となるのは、自分が着るという前提を踏まえて段ボールを体に見立て、どこにどんな部位をどの程度の大きさで作って貼りつければ思うものが作れるかを導き出す、空間認知能力です。子どもたちは、普段、テーブルの上に乗る程度のサイズを作り慣れているため、大きく作ったつもりでも小さすぎることが多く、作り直していると時間が無くなり、そのままつけるとアンバランスな仕上がりになるという状況に陥った子もいたようです。

 段ボールを使っての製作は、2016年度男子「深海に探検に行く車」と、2017年度男子集団製作「バス」で出題されていることから、当研究所では講習会で大きなものの製作への対策も行っています。
 製作中には、「どんなコマを作っていますか」「どうしてこのコマにしたのですか」「これは好きですか」「どんなところが好きですか」「実際に見たことはありますか」などと先生が質問します。お子様の言語表現力や会話のキャッチボール力を測るため、製作物に対する質問より、圧倒的に興味や体験についての質問がなされました。
 なお、昨年のペーパーで「だるま落とし」が、女子の製作でも「福笑い」や「お祭り」をテーマとしたものが出題されています。伝承遊びや伝統的な行事などを幼稚園・保育園任せにせず、家庭での対策の一環として「我が家ならではの楽しみ方」で興味の幅を広げ、印象付けておくこと、それを忘れないよう、ときどき会話や写真で思い出させ、常に新鮮な記憶にしておくことが大切です。
 さて、製作後は自分の作品を身に付け、先生の「やめ」の合図まで、4人グループになってラダーとフープでできたすごろくで遊びます。約束は、サイコロを優しく振ること、お友達と同じ場所で止まったら片足だけフープやラダーに入れもう片方は外に出すことです。グループで順番を決めてすごろくを始めると、自分の止まっている場所を覚えておいてサイコロを取りに行って振り、止まっていた場所に戻って出た目の数だけ進んで待つということを繰り返すため、記憶力が必要です。また、グループのメンバーを認識できていないと自分の順番も分かりません。自分だけが楽しむのではなく、友達の動きもきちんと追う視野の広さが求められます。さらに、自分の場所に止まっていると、後ろから段ボールを着た友達が来て追い抜いていきますから、約束にはなくても、友達の動きを察してさりげなく体を傾けて道を譲る配慮も必要です。自然にこうした動きができるのは、日常生活での声掛けやマナーの指導の賜物と言えるでしょう。

■「動物村の宝探し」がテーマだった女子

 動物しか入れない動物村に行く設定で、変身したい動物のお面を作ることが課題でした。机の上には丸い白画用紙があり、それを使ってお面を作ります。机にあるセロテープ・クレヨン・はさみを使い、材料を取ってきて作るのですが、時間帯によっては材料が白画用紙と≪赤・青・黄色・緑の折り紙≫≪黄緑・橙・赤のモール≫≪青・紫・桃・青・橙の紙テープ≫しかなかったようです。子ども達も、「動物らしい黒や灰色や茶色はクレヨンしかなくて困った」と話しており、材料はあまり使えないけれどクレヨンで本物らしい色にするか、与えられた材料を使って形で勝負するか迷ったようです。
 製作中に先生が近寄ってきて、「何作っていますか」「どうしてこの動物ですか」「見たことはありますか」「どこで見ましたか」などと聞かれました。本物と違う色の場合には、「なぜこの色を選んだのですか」と聞かれることも多いので、本物の色がなかったからなぜこの色を選んだのか、自分の考えを話しましょう。
 動物をテーマした場合、子どもが「取っておきの得意なもの」を作ると学校側もわかっているのか、かなり突っ込んだ質問をされるケースがあります。
 今回も、パンダを作った子が、「どこで本物を見たのか」と聞かれ、「飛行機でアドベンチャーワールドに行ったこと」を話すと、感想を聞かれたので「いつも寝てるらしいけど、外でいっぱい遊んでいてかわいかった」と答えました。そこから、
先生「パンダが食べるものの中で、あなたも好きなもの何?」
子ども「りんご」
先生「どうしてリンゴなの?」
子ども「食べた時にシャリシャリしておいしいし、甘いから好き」
と会話が広がりました。もし、パンダをそれほど好きではなく「パンダ=笹」と固定観念を持っていたなら、こういう展開はなかったでしょう。
 このように、学校側は作品のクオリティーだけで優劣をつけるのではなく、その作品を通して、子どもの興味の深さ、さらに言えば、長ければ16年預かることになる子どもの人間性を測ります。
 製作後は、先生が帯をつけてくれたお面を被って、動物村に行きます。動物村では、村長さんの宝がバラバラになって村長さんが悲しんでいる設定です。村長さんの宝はパズルになっているジョイントマットで、そのピースを3~4人のグループで探して完成させます。ただし、動物村では自分の被っている動物に変身しなくてはいけないので、宝を探すときもその動物の動きや鳴き声を真似しながら移動しなくてはなりません。動物ならば、どの子も得意なものを複数準備していることでしょう。「これから動物島に行って変身するためのお面を作ります」と課題が出た時点で、「あ、後でこの動物に変身するのか」とひらめく地頭がある子は、より真似をしやすい動物を選んだようです。

 このように、2次試験では8パターンのまったく違う課題が出題され、同じテーマでも月齢によって発問が違います。さらに、絵画も製作もかなりの広範囲から出題されるため、対策法がわからず途方に暮れる方もおられるでしょう。しかし、詳しく分析すると、実は今回の課題はほとんどが過去14年間に出題された課題をリメイクしたものでした。過去のテーマとその意図を研究し、すべてのテーマをアレンジして対策していた子にとっては、どれも触れたことのある課題であり、自信を持って取り組めたことでしょう。

最後に

 すべての受験が終わり、1週間ほどしてから、第二志望の△△小学校に進学することになったお母様と話をする機会があった。「第一志望にしていた〇〇小学校にご縁がなかったことを知ってとても残念がっていた娘が、先日、『ママ!私はもうお医者さんになれないんでしょ?』と突然言い出したので、『どうして?』と聞くと、『ママが、お医者さんになりたいなら○○小学校」て言ってたじゃない』と言うんです。ちょっと驚いたんですが、『そんなことはないのよ。△△小学校の方がお医者になるなら近道かもしれないわよ』と落ち着いて話すと、娘も『本当?!だったら早く言ってよ。なら良かった』って、ご機嫌で言ってくれたのでほっとしました」と話してくれた。あの子らしいなぁと思った。それから、「親で落ちたのかもしれないのに、子どもの名前で不合格通知が届くのは納得できない」「子どもははるか先のことを考えて前を向いているのに、私は結果の伝え方など過去のことに縛られていて恥ずかしい」と、すっきりした表情で話してもいた。誰よりも娘の力を信じているその母親らしい発言だと感じ、心に残った。
 また、新しい年が始まる。ジャック一丸となって学者・役者・易者の研鑽を積みながら、子ども達のさらなる成長を支え、吉報を待とうと思う。