理事の総括
Overview
来年への飛躍を目指して
2020年度入試の振り返り

今年の入試を振り返って今思うこと
今年も、慶應義塾幼稚舎68名、慶應義塾横浜初等部58名、早稲田実業学校初等部51名(2019.12.17現在)をはじめ、たくさんの子ども達が希望校に合格しました。心よりお祝いを申し上げます。
入試期間がひと段落した今、実際に出題された入試問題を挙げながら、今年度の小学校入試を簡単に総括いたします。
母親講座の会場で…
2019/9/5は、ジャック正会員向け母親講座の第5回。会場のアイビーホールで、『入試直前の過ごし方~合格に向けて50日間でするべきこと』というテーマで話そうと準備をしていると、場内の一角がざわついているのに気付いた。原因は、その日配布された慶應横浜初等部の願書。昨年までは『「福翁自伝」を読んで志願者の独立について感じるところを書いてください』とあった部分が、『「伝記 小泉信三」(慶應義塾大学出版会)を読んで、慶應義塾の塾風・気風(空気感)について感じるところを書いてください』に変わっていたことで動揺が走った。
その時点で、ほとんどの保護者がこの本を持っていなかった。9月は子供の学力を定着させ苦手なところを総復習する大切な時期にもかかわらず、新たな本を読み、仕上げたはずの願書を一から考え直さねばならなくなったのだ。来年初等部の受験を考えておられる方は、願書の上段の志願理由(志願者の様子や家庭の方針に言及しながら書いてください)を8月までに仕上げ、何があっても慌てないよう備えることが肝要だろう。
新たな傾向と志願率
今年開校したばかりの東京農業大学稲花小学校は、出願に際して保護者に「テーマ作文」の提出を求めるなど、新しい感覚が感じられる。今年のテーマは「親として子供に伝えたいこと(約1100字程度)。これは「正解のない課題」と言えるかもしれない。できれば、「テーマ作文」ということを意識し、既存の願書の記入欄とは一線を画した内容を目指したい。稲花小学校は、「生き物」や「食」を題材にした数多くの体験学習、一年生から最長七時間目まである丁寧な授業と英語教育、給食、アフタースクールなど、人気のワードが目白押し。入学試験は前期(定員50)・後期(定員22)と2回あるが、前期は約9倍、後期は21倍の高倍率。特に後期は昨年の約16倍から跳ね上がった。
全体的に見ると今年の入試倍率はおおむね微増・微減だったが、東京都市大学付属や、2020年度に青山学院横浜英和小学校への改称が決まっている横浜英和小学校(これにより、青山学院大学への進学を希望する場合、大学が定める進学条件を満たす生徒は全員推薦されるようになる)なども倍率を上げた。
一方、昨年まで慶應義塾幼稚舎の女子は11月1~3日に逆生年月日順で行うという入試日程だったが、今年は1日と2日だけになり、その影響で出願者数が704名から596名に減った。というのも、白百合・聖心・雙葉など11月1日に考査を行う女子校が多いからだ。高月齢の子は幼稚舎の考査が2日になるので両方受験することが可能だが、月齢の低い子は考査時間がずれない限り併願できない。受験といえども公平に行う事は難しい。しかし、準備をしてきた子が選択を迫られるのは残念でならない。
※受験者数・倍率はジャック調べ
今年の入試で改めて感じた3つのこと
①数を打つことが大事
小学校受験において偏差値なるものは通用しない。横浜雙葉にご縁がなくても洗足学園・聖心・四谷雙葉から立て続けに合格通知をもらった子もいれば、桐蔭学園にご縁がなくても早稲田実業・慶應幼稚舎から合格通知をもらった子もいる。というよりもそんな子はたくさんいる。2019年9月5日公開のブログ「ヤーデージポストにも書いたが、珍しい事ではないのだ。
■ヤーデージポスト2019/9/5付 より~
「数打ちゃ当たる」のはなぜか
合格を目指して一生懸命がんばっているご家庭を前に、「数打ちゃ当たる」とは何とも申し訳ない言い草ですが、そう言うに値する現実が存在するのも確かな事実です。
度胸試しのつもりで受けた最初の学校や、すべり止めのはずの2校目で失敗しても、3校目、4校目で合格を手にする方は、例年何人もいます。いわゆる偏差値から言えば、不合格になった学校よりも合格した学校の方がずっと高いということも珍しくありません。なぜそんなことが起きるのでしょう。
要因の一つは、受験生が幼児だということにあります。幼児は、精神的にも肉体的にも未熟ですから、自分をコントロールすることはできません。なんとなく機嫌が悪いというだけで、日頃の力を発揮することができなくなります。最初の問題が解けなかったというだけで、最後まで不調のまま終わることもあります。何が影響するかわかりませんから、一発勝負は危険です。その点、何回もチャンスがあれば、調子の良い試験日も巡ってくるというわけです。
さらに、何度も経験することで、試験に慣れることも大きな要因です。親も子も、最初の試験のときはガチガチに緊張してしまうものですが、回を重ねるうちに雰囲気にも慣れるし、緊張を楽しめるようにもなります。
三つ目は、「運」です。試験と名の付くものに合格するには、少なからず「運」が要素になるものですが、とりわけ小学校入試は、その割合が大きいと言えます。例えば、行動観察などはその顕著な例と言えましょう。子どもの行動をどのように採点するかは学校によって異なりますが、実は、同じ学校であっても、担当するテスターによって多少の差異が生まれるものです。相性の良いテスターに当たるかどうか、これはもう運と言うしかありません。
ただし、こうした背景には、周到な事前の準備と、不合格になった際の保護者の適切な対応が必要であることを忘れてはいけません。もし、準備の段階で手を抜いてしまうと、選択肢は狭まり、いくつもの学校を受験することはできなくなります。また、1校目、2校目と不合格が続いたときに、親が慌てたり、がっかりした態度を見せたりすれば、子どもは敏感に親の気持ちを察し、必要以上に気落ちして、それこそ合格できる学校まで失敗してしまうかもしれません。最後まで我が子を信じ、不本意な結果に動じないこと、そして決して諦めないことが、最後に笑うために絶対に必要な条件なのです。
~以上ブログより~
②自分の言葉で話せることが大事
保護者への質問よりも、子供への質問が増える傾向があるように感じる。保護者はある程度取り繕うこともできるが、子供はそうはいかない。今年、某小学校の面接で、子供に30問近くの質問がされた。その一例を紹介しよう。
・今日はここまでどのように来ましたか―どの駅で乗り換えをしましたか―何線に乗ってきましたか―電車に乗るのは好きですか→どんなことに気を付けていますか
・園で楽しいことは何ですか―何をして遊んでいますか(折り紙や工作と回答)―折り紙では何を折っていますか
・先生に褒められたことはどんなことですか―好きな先生のお名前を教えてください―先生のどんなところが好きですか(先生と手紙を交換)―どんな手紙を書きますか―字や絵を描くのは好きですか
・兄弟でどんな遊びをしますか―兄弟で喧嘩はしますか―仲直りの仕方を教えてください
・どんなお手伝いが好きですか(弟に絵本を読んであげること)―どんな絵本を読んであげていますか―お手伝いは何をしていますか(朝のトイレ掃除)―トイレ掃除は誰がやると決めましたか―トイレ掃除は嫌じゃないですか―朝、掃除以外に何をしていますか(ジョギング)―どこを走っていますか―毎日走っていますか
・お母さんの作る料理の中で一番好きなものを教えてください(餃子)―餃子はお母さんと一緒に作りますか―自分で餃子を作る時に気を付けていることはありますか―餃子以外で、お母さんのお料理でお父さんが好きな料理を教えてください―作り方を教えてください
・お父さんの好きな動物は何ですか(犬)―なぜ犬が好きだと思いますか
・誕生日に何をもらいましたか(地球儀)―どのような国がありますか―どの国に将来行ってみたいですか―そこで何をしたいですか
圧迫面接とまでは言わないが、次から次へと出される質問に答えることは、幼児にとって至難の業だ。日々の会話を充実させるとともに、「聞き取り話し方」の授業など対策の必要性を感じる。また、質問を見ると、教わってきたことや記憶してきたことを話すだけではなく、その場で考えて自分の言葉で話せるようにすることが大切だと改めて思う。(そのためのヒントが「ジャック驚異の合格率の理由がここにあります!」のP70先回りは自立の邪魔?に書いてあるので、ぜひ読んでみてほしい)。
もちろん、親子が互いに関心を持ち普段から濃密な親子の会話をしていることが、小学校受験の面接においても大切なことは言うまでもない。親子に限らず、コミュニケーションとは「相手が関心を持っていることに関心を持つ」ことなのだから。
③相談することだけが行動観察ではない
行動観察は、さまざまな観点を持って実施される。例えば、聖心女子学院の共同絵画は、「話し合い」と「待つ態度」が重要。観点としては、「相談」「協力・共同」「規律」となるだろう。他校の動向にかかわらず精神の観点はほぼ変わらない。いかにも聖心らしいとも言える。
一方、全体的な傾向としては「相談」という課題が減少しているように見える。早稲田実業は、考査が複数日に渡るため男女や月齢によって課題は異なるが、競争や共同作業、グループ遊びにおいて必ずと言っていいほど「相談タイム」「作戦タイム」があるのが特色だった。しかし今年は「相談タイム」「作戦タイム」がなく、ルールやそこでのコツを理解させ、共同作業をさせる課題として、「フープくぐり」や「バンダナつなぎ」が出題された。これは今までにはなかった大きな変化である。
また、慶應義塾幼稚舎も複数日に渡り考査を行うが、どの課題でも「相談を課しておらず、ルールに従って行う中での個人のパフォーマンスが見られたと思われる。また四谷雙葉でも、さまざまなシチュエーションの指示に対し子供たちがごっこ遊びをする「お祭りごっこ」などが出題されたが、相談は伴わなかった。受験者数の多い早慶や伝統ある女子校でこのような傾向が見られたことは、今後の傾向を占う上での大きなポイントだ。
では、なぜ「相談」が減少しているのだろうか?
もしかすると、その一端は、我々幼児教室や保護者の存在にあるかもしれない。
保護者からときおりこのような質問を受けることがある。
「うちの子いつも相談の時出遅れるんですよ。ほかの子に仕切られちゃって、意見が言えないんです。結局、いつも『いいよ』しか言えなくて…。先生、自己主張しなきゃ行動観察では目立ちませんよね?」
仮に、保護者が行動観察の相談で「グループ内でいかにイニシアティブをとるか」だけをわが子に追求し、子供もその価値観のもと、グループでは「先ず先に意見を言う」「決め方を提案する」など、とにかく他の子を差し置いてでも自分をアピールするようになったとする。考査中、そんな一見目を引くように思われる子供ばかりが学校の先生方の目に映ったとしたら…。クラスの全員がそんな子供だったら…。学校の先生方が違和感を持つようになった可能性は捨てきれない。
もちろん、相談させる課題が全く無くなるとは考え辛いが、求められているのは、「自分で判断する能力」なのではないだろうか。
今年、慶應義塾幼稚舎の考査後に教室に来てくれた親子がいた。とても利発で、ペーパーも運動もよく出来る子なのだが、それでも父親は、「うちの子アピールが足りないんですよ。表情も普通だし…家では女王様になるんですけどね。」なんてことを言う。
彼女の行動観察は「グループでリレー形式でカードしりとりをする」課題だったらしい。詳しく内容を教えてもらっていると、「ちゃんとその場で自分の意見を言ったの?」と父親。するとその子が、「あのね、これはそういうタイプのゲームじゃないの!大切なのはちゃんとお約束守って、チームの役に立つことなの!私ちゃんと考えてやったんだから!」と言うので、私も「さすがだね!きっとAちゃんの言うとおりだと思うよ」と伝えた。結果は○。
行動観察は様々な観点で実施されるが、『子供自身がその課題の中で重視されるものを感じ取り、自らの行動で表現すること』が求められるようになっているのかもしれない。
2020年度 慶應義塾横浜初等部の
入試の変化
冒頭に記したように、願書の課題図書が「福翁自伝」から、「伝記 小泉信三」に変わった初等部だが、考査でも変化が見られた。
まず、一次考査で過去7年間に6回出題された「話の記憶」が出題されなかった。
二次考査では、製作に入る前に素話を聞く時間があった。これまでは、先生による導入の話から製作につながる課題がどちらかというと主流だったが、今年は、素話と製作はそれぞれが独立した内容だった。素話は、もしかして時間調整?とまで思わせたが、実は、この素話を聞かせるところから、「素の子供の姿」を見る入試が始まっていたと思われる。素話は日本の昔話にあるような内容で、子供たちの感想は、「ちょっと怖かった」「面白いお話じゃなかったよ」「聞いたことのないお話だった」など。絵を見ながらであればまだしも、子供達にとって、決して楽しいとは思えないあらすじ、聞きなれない言葉、少し難しくも感じる内容に、「なんだ、面白くないな」「よくわからない」とそっぽを向いたり、集中が途切れてしまう子もいただろう。反対に、「次はどうなるのかな」と頭でイメージしながら引き込まれるように聞いていた子もいただろう。両者の違いは、先生方の目には明確だったに違いない。つまり素話こそ、「言葉の力の教育」を大事にしている初等部らしい内容であったのだ。「話す力」は勿論のこと、話に耳を傾け要点を考えながら、しっかりと「聞き力」にも重点を置いた考査だったと思われる。
その後、「油粘土であなたの食べたい昼ご飯を作りましょう」「油粘土でお正月にあったらよいものを作りましょう」など、すべての月齢で油粘土が出題された。
学校別の初等部クラスでは、粘土は扱ってはいたものの、年に数回程度と他の画材に比べれば極端に少なかった。それは、初等部の特色の一つである、「自分で作った製作物で遊ぶ」という行動観察が粘土ではやりづらいので、出題されないだろうとの予見による。過去を振り返っても、一期生の入試で粘土が出題されたことはあったが、その時点では製作と行動観察ははっきりと分けられていて、行動観察ではお手玉やダルマ落とし、コマなど、昔ながらの遊び道具で遊ばせていた。
2019/9/5の願書配布時点で、「今年は何か違うかもしれないともっと直感を働かせていれば、直前の授業の画材を粘土に差し替えることもできたのではないかと、つくづく悔やまれる。それが影響してかジャック全体で58名(2019/12/17現在)、昨年と同じ合格者数にとどまった。
慶應義塾横浜初等部を担当しているあざみ野・桜新町・成城・横浜元町の四教室は、「何が出題されたのではなく、なぜその問題が出題されたのか」を多方面から分析し、会員の信頼に応えなければならない。
さて、今年度の合格者の傾向を見ると、製作が上手と言うよりは、楽しそうに製作に取り組む表情の明るい子・話すときに意欲のある子が多い。志願者は今後さまざまな絵画製作に取り組むことになるが、復習や宿題発表のためだけに製作を行うのではなく、製作そのものを楽しめる子になって欲しいと願う。そして、そのためにも保護者には、過去問にとらわれることなく、いろいろな画材や材料を見つけてきたり、「これだったらどんなものが作れるかな?」と問いかけ、子供と一緒に製作を楽しんでほしい。もちろん指導者も、テクニックの向上だけでなく、どんな問題が出たとしても自信を持って取り組める子にするための方法を常に考えながら子供たちと接しなければならないと、自戒を込めて思っている。