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理事による入試総括

JAC Infantile Education Laboratory
Special Contents

OVERVIEW © COPYRIGHT 2017 JAC

2017年度入試を終えて
来年受験の方にアドバイス

  • 大岡史直
    ジャック幼児教育研究所
    理事 大岡史直

01

受験者数

首都圏の各私立小学校の受験者は、おおむね前年比1割の増減の幅で推移しました。
その中で注目したいのが、受験者数が昨年比約三割増となった立教女学院です。これは、試験日程を変更し、併願しやすくしたことが理由だと考えられます。

一方、神奈川県については、10月の第3週の火曜日が入試解禁日です。以前は、この日に、全ての学校が入試を実施していましたが、数年前から、洗足学園小学校・横浜雙葉小学校・精華小学校・横浜英和小学校を除く、ほぼ全ての学校で、A日程・B日程の二回、入試が行われるようになりました。今年は、湘南白百合小学校でもB日程を実施したことで、より併願しやすくなり、その結果、A日程しか行わない横浜雙葉小学校の受験者が2割強増えました。
来年からは、洗足学園小学校でも、10月の第3週の火曜日に男子、次の日に女子と、男女別に入試を実施すると発表されています。これにより、併願しやすくなる女子の倍率はかなり上がると予想されます。
このように試験日や試験回数の日程的な工夫に加えて、より力のある生徒を求めて志願者数を増やすために、学校の自己改革、すなわち、新たな魅力づくりも多く見受けられます。
もともと、私立小学校には独自の教育理念があり教育に特徴があります。それに加えて、グローバル化やIT化、共働き家庭の増加など、社会の変化や保護者の価値観の多様化に対応する学校が増えています。たとえば、バイリンガルコースの導入、ICT教育の先取り、アフタースクール、手厚い中学受験指導など、新たな取り組みを行っている学校はHPなどで情報を発信しています。小学校受験をお考えのご家庭は、ぜひ、私立小学校の今を知るために、多くの学校情報を確認して、お子様の志望校選択に役立ててほしいと思います。

02

面接は普段からの会話が大切

日常生活において子どもに対してどのように接しているのかを質問する学校が増えています。これは、子どもの性格など、基本的な質問については多くの保護者が準備して来るため、それだけでは家庭の様子が見えてこないためだと考えられます。

例えば、今年、聖心女子学院初等科では、「夜、お子様が寝る時間が過ぎても、おもちゃの片付けが終わっていません。お母様はお子さんにどのような言葉がけをしますか。今この場でお子様に話してください」という質問や「お子さんと一緒に外出した帰りに電車に乗っていたら、前の席が一つだけ空きました。お子さんはとても疲れています。近くにお年寄りが立っています。もし、お子さんが座りたいと言ったら、お母様はお子さんに何と話しますか。今この場でお子さんに話してください」といった質問がなされました。これらの質問に決まった正解はありません。しかし、「どんなに疲れていても、お年寄りに席を譲らなければいないこと、わかるよね」と話しかけるだけでは、普段から子どもとこのような会話をしているようにはテスターに伝わらないと思われます。例えば、「いつもAちゃんはどうしてる?座らない。そうね。子どもはどんなに疲れていても座らないで、疲れているかもしれない人に譲っているよね。この前、お年寄りの方に、『ここ空いていますよ』と、素敵な言葉をかけたのを覚えている?お年寄りが喜んでくれることが、あなたの喜びになるように、これからもそうしようね」という言葉がけをしたいものです。
さて、このような面接には、従来の面接のための準備では太刀打ちできません。何を聞かれても安心して答えられるようになるためには、子育ての集大成の中に面接があることを自覚し、普段から良質な会話をしていくことが大切です。

03

集団行動観察テストの目的

今年も都内近郊44校中43校で、実施され、試験科目として最も出題頻度が高く、また、どの試験科目よりも合否に即、直結するのが「集団行動観察」です。
この行動観察は、お子様の言動を通して、ご家庭での躾や教育、その子の性格、社会性や協調性など、実に様々なことが透けて見えるテストです。

そのため、学校側は、趣向を凝らしたゲーム、グループで絵を描いたり何かを作ったりする共同製作、相談して配役を決めての劇遊びや歌の発表など、子ども達が楽しんで取り組める課題を出し、お子様の素の姿を引き出そうとします。
ところで、「行動観察では、リーダーシップをとることが重要」と思われている保護者がいますが、それは違います。リーダーシップは、悪いことではありませんが、リーダーの要素を持った子だけが集まった学校が、果たしてうまくいくでしょうか。多様なタイプの子がいていいのです。受験の準備というと、とかく、ペーパー、製作、運動など、目に見える能力だけに時間を割きがちですが、「心」を育てることを忘れてはいけないということだと思います。

さて、今年も様々な学校で実施された集団行動観察テストですが、ここでは、横浜雙葉小学校で実際に行われたテストをご紹介しましょう。
子ども達は6~7人のグループに分けられます。試験会場には、このような絵と、12枚のカードとクーピーペンが入った箱が置いてあります。カードには、男の子、女の子、魔女、宇宙人、お化け、鬼、犬、熊、ウサギ、亀などの絵がかいてあります。出題は、「丸くなって座ってください。これから、『わくわく散歩』をします。お家から出かけて、お家に帰ってこられるように、空いている丸のところに、緑のクーピーで絵を描いてください。箱の中の12枚のカードから3枚選んで、お家のところに置いてください。先生が「やめ!」と言うまで、3枚のカードを使ってお話を作りながら、カードを動かして進みましょう。話す順番は相談して決めてください。お話を作る時は、緑のクーピーをマイクの代わりにして話してください。」というもので、集団製作やお話作り、待っている姿勢など、さまざまな要素が含まれたテストでした。
ヘビの近くには丸の中にヘビを退治する動物やヘビと仲良くするための餌を描いたりするグループが目につきました。また、お金の近くには丸の中に交番を描いたり、お店を描いたりしていました。
さて、こうした行動観察のテストには、唯一無二の正解などありません。学校側が最も見たいと思っているのは協調性なので、みんなで楽しく準備、すなわちここでは絵を描いたり、カードを選んだりすることですが、そうした準備をして、みんなで楽しく遊ぶことができれば、それが一番良いのです。

例えば、絵を描くクーピーペンは1本しかありませんから、実際に描けるのは一人ですが、クーピーを持つ子のそばにいて、何を描けばいいかあれこれとアドバイスをすることも良いですし、お友達が絵を描いている間、カードを見ながら、どのカードを選ぼうか、どんなお話が作れるかと考えたり、話し合ったりするのも良いでしょう。ただし、同じグループにいるのに、自分は積極的に参加せず、傍観者になっていてはいけません。お友達が絵を描いている間、ただ待っているというのもいただけません。また、そうはいっても、クーピーペンの取り合いになったり、お友達の描いている絵にケチをつける子がいるかもしれません。お話作りにしても、それぞれイメージしている話が違うので、カードを選ぶときに言い争いになったり、自分のお話を押し通そうと躍起になったり、自分の意見が通らなかったからと、いじけてしまう子もいるかもしれません。もちろん、そうならないようにすることが一番ですが、そうなってしまったときにどのような態度で何をするか、それもまた見られているのです。
さて、このような行動観察で最も大切なことは、周りのお友達をライバルではなく、仲間だと思うことです。ライバルだと思ってしまうと、「他の子を押しのけてでも自分が描かなければ」という気持ちになったり、他人の話を聞くことを忘れて自分ばかりが話したがったり、自分の意見を優先させてしまったりするものですが、例えその日に初めて会った子であっても、一緒にその学校に入学する仲間という意識を持って取り組むことができれば、助け合ったり譲り合ったりすることが自然にできるはずですし、お友達の話を聞いたり、お友達の絵やお話を褒めたりすることも、いつものようにできるはずです。

04

ペーパー力をつけるために

ペーパーであっても、実体験がベースになって解いていく問題が、今年も多くの学校で出題されました。例えば聖心女子学院では、
羊は「お湯に半分くらいの冷たい水を入れたら、ぬるくなったよ」

シカは「お水に卵を入れたら、卵は浮いたよ」
ゾウは「お水に氷を入れたら、氷は沈んだよ」
ライオンは「お水に少しずつお砂糖を入れたら、だんだん甘くなったよ」
本当のことを言っているのは誰でしょう。青のクーピーで○をつけましょう。
という常識の問題が出ました。普段からお手伝いをよくしている子なら、容易に正解できる内容です。ただし、この問題についてはもう一つ注意しておきたいところがあります。それは、問いの場所です。内容は同じでも、問いが先に来るか後で来るかで、難易度に大きな差が出ます。この問題のように、何を聞かれるのかわからないままお話を聞き、最後に、「正しいものに〇を」と問われるケースでは、話の内容を覚えておくという要素が加わるため、内容にかかわらず難しくなります。発問はとても大事ですから、家庭学習の発問でも注意してください。

また、慶應横浜初等部では、電子黒板に映しだされているバナナとキウィフルーツを見せながら、「このようにするためには、どのように切ったらよいのでしょう。○を書きましょう。答えは一つとは限りません。」という問題が出ました。このような、果物の切り口に関する問題は、まさに実体験の差が出る問題です。

ペーパー力といえば机上で身に付けるものと思われがちですが、それだけではありません。特に常識問題や理科的な問題は、お手伝いや身の回りのことをさせることです。この二校に限らず、今後もこのような問題が増えていくことが予想されます。

05

絵画製作

PART1慶應横浜初等部

まずは慶應横浜初等部ですが、女の子と男の子でテーマがハッキリとわかれています。
今年は、女の子は、ダンスパーティーに着ていく自分だけの服を作る、あるいは、動物が逃げないようにするために動物に変身できる動物帽子を新聞紙で作るなど、装飾がテーマでした。一方、男の子は、科学的な常識をみられるような製作でした。

机にはこのような小さな箱や紙が置いてあり、「うちわであおいで、速い車を作ってください」という課題がありました。風をうけて進むためにはどのように作ればよいのか、ということがわかっていることがポイントです。速いと思わせるような装飾をした子も多かったようです。お子さんが実際に作った作品がこちらです。
また、紙皿の上にペットボトルが固定されている土台が用意されており、「これから輪投げをします。輪投げで、捕まえたいものや、狙いたいものを作ってください。できたら、机の上にある輪を使って遊びます」。という課題もありました。なかには、得意な動物を装飾したつもりが、大きすぎて輪が入らないというお子さんもいたかもしれません。製作後に輪投げをして遊ぶことを考え、輪の大きさに配慮して作品を作ることができれば、さらに楽しく遊べたでしょう。

PART2慶應幼稚舎

次に慶應幼稚舎ですが、幼稚舎では、ここ数年
・飛行機を飛ばして着陸した島で四日間暮らします。あなたなら島で何をしますか。
・あなたが作ったお弁当を妖精が食べた後、あなたと妖精はどのように過ごしますか。
・あなたが作った紙コプタ―で誰とどこで遊びたいですか。
・あなたが困っていて助けてもらった時の絵を描きましょう。
など、人との関わりをテーマに出題してきましたが、今年はテーマが想像性に変わりました。
・博士が「合体したいという夢を叶えよう。おまえは何と合体したい?」
・○△□のスタンプを押しながら、絵を描く
・透明人間になれるマントを着てやりたいことは何ですか
など、まさに子どもの自由な発想と創造性を見る内容でした。この傾向は来年以降も続くかもしれません。

PART3早稲田実業初等部

続いて早稲田実業初等部ですが、初等部の絵画では、
・これはどこにでも行ける魔法の絨毯です。これに乗って、誰と一緒に、どこに行って何をしたいですか?
・これはどこにでも行ける魔法の扉です。あなたはどこに行って何をしたいですか?
・お鍋の中に美味しいものが入っています。蓋を開けたらあなたが嬉しくなるものを描いてください。
・あなたは桃太郎です。今から鬼退治に行きます。おともに連れて行きたいものを描いてください。
といった課題が日替わりに出されました。どの課題画も、何を描いてもいいのですが、何を描こうか迷うタイプのお子さんは、すぐに決めることができずに時間だけが過ぎてしまうかもしれません。それだけに、決めることや最後までやり抜く力を持っていることが重要になります。決断力を身に付けるためには、自分がやろうとしていること、自分が答えようとしていることが正解なんだというぐらいの自信をつけていくことが大切です。そのために保護者の方が気を付けなければならないことは、模範解答などないのに親が勝手に決めつけて子どもに教えようとしないことです。

以前ある学校で、スポンジケーキが用意されていて、「今日はあなたの誕生日です。家族三人で食べられるようにケーキを切ってお皿に載せてください」という問題が出題されたことがありました。入試が終わって教室に来た女の子は、ケーキを切る問題が出たと興奮気味に話し、「ケーキを切ったら大きさが不揃いになってしまったけど、お皿にのせたら、テスターが『あなたはどのお皿のケーキを食べるの?』と聞かれたそうです。その子は『私はその中で一番大きいケーキを自分のにします』と。それを聞いていた母親は、どうして大きいのを取ってしまったのかとガッカリしていましたが、その子は、テスターから「どうして大きいのにしたの?」と聞かれ、「今日は私の誕生日だから、大きいのを食べてもいいと思って」と、胸を張って教えてくれました。ところが、それを聞いてもその母親は、「先生!大きいのをとったらダメですよね?」と言うのです。
なぜ小さいケーキを選ばなければいけないのでしょうか?その子は、自分の誕生日だから一番大きいのを食べてもいいと思ったと答えることができたのですから、充分なのです。もちろんその子は合格しました。

今年、晃華学園では「あなたが二等だったら、どのお友達に何と声をかけますか」という話の創作の問題が出題されました。
もちろん、一等の子に「よかったね」、三等の子に「泣かないで、一緒にがんばろう」と声をかけるのも良いでしょう。ですが、一等の子に、「今度は負けないから」とリベンジ宣言しても良いのです。かけっこの目的は人を抜いて一等になることです。二等だったら、次は一等を目指すのが当たり前です。二等になった直後に、一等の子に「おめでとう、よかったね」と言わなければ、正解ではないなんてことはありません。
問題なのは先ほど申し上げたように、親が優等生の答えを求めてしまうあまりに、子どもが考えすぎて何も言えなくなってしまうことなのです。

06

「応用自在」授業の必要性を
改めて感じる

今年は、学習院初等科で、ストローとセロテープを使って三角形を作る指示製作がでました。
このような問題で指示通り作るためには、思考力が必要になります。思考力を身に付けるためには、保護者が授業の課題をそのまま復習するのではなく、多少アレンジを加えて復習するとよいでしょう。そうすることで、考える力を養うことができます。

例えば、今回の学習院初等科の課題であれば、同じ三角形を作るにしても、セロテープではなくモールを使ったり、このように差し込んだりすることができますし、あるいは、四角形や、辺の長さが違う長四角を作るなど、さまざまなアレンジが考えられます。このように、アレンジして復習することで、思考力と初めての問題をやり抜く力が養われていくのです。
さて、学習院初等科に限らず、最近の入試では、このようなユニークな出題が目立っています。自分で考え・対応できるお子様を求める学校が増えているということです。応用自在の授業は、こうした傾向に対応すべくジャックが考案した独自のカリキュラムです。来年の受験に向かって、ぜひ受講されることをおススメします。

07

戦い終えて日が暮れて

私立小学校の教育内容が時代に即して変化しも、また、入試問題の切り口が多様化しても、各校が入学してほしいと思っているお子様と家庭像が大きく変わることはありません。

①ご家庭での躾や教育が行き届いていること
②親子で良質な会話が行われていること
③心の教育がなされていて社会性や協調性があること
④年齢相応な実体験を積んでいること
⑤自由な発想と創造性があること
⑥自分の考えをきちんと伝えたり形にできること
⑦思考力とやり抜く力をもっていること
です。これらの力を着実に付けるために、各ご家庭で、きちんと戦略をたてていただきたいと思います。